村形聡さんのご著書『社長のための「非常識な会計」のルール』を拝読いたしました。
村形さんは慶応義塾大学経済学部卒、公認会計士、税理士で、現在は税理士法人ゼニックス・コンサルティング社員税理士兼CEOを務めておられます。
5月17日に銀行の勉強会で村形さんのご講演を拝聴し、興味をもったのでご著書を読んでみることにしました。
この本でもっとも衝撃を受けたのは、「回収実績」から「回収義務」を引いたものが「本当の儲け」になるという考え方です。
回収実績とは実質経常利益(損益計算書の利益から役員報酬、減価償却、税金などを取り除いたもの)と運転資金増減の合計です。回収義務とは、事業に投下した資本の毎年の回収目標額、借入金を減らすための毎年の回収目標額、経営者報酬の三つの合計です。いずれも村形さんの考えられた概念のようです。
投下資本の回収目標額とは建物や設備の法定の償却年数ではなくて、現実的に買い替えをしたいというときまでの年数ですし、借入金の返済も銀行と結んだ約定返済の期間ではなくて、返したいと思う年数の期間です。この方法で「本当の儲け」を計算すると、決算書とはまったく違う結果が出てくるでしょう。
回収実績と回収義務の差が少ない場合、つまり本当の意味での儲けがないときはどうしたらいいでしょうか。
「回収義務」と比較して、「回収実績」が不十分であるならば、真っ先に削らなくちゃいけないのが経営者報酬だってことは肝に銘じておいてくださいよ。だって、経営者は、「回収実績」が不足していることの責任を取らなきゃいけないでしょ。場合によっては、1年間ただ働きになるかもしれません。
『社長のための「非常識な会計」のルール』p124より引用
そういうことですね・・・・・・まぎれもなく社長の責任です。
普通の決算書をつくっていると、村形さんの基準からして儲かっているかどうかは分かりません。
だからこそ「非常識な会計」であるわけです。投下資本をすべて回収した後にようやく本当の儲けが出てくる、という考え方です。
これは説明されるとよく納得できるのですが、普段税務会計という言語で話している中では、なかなか気がつかないことです。
私の説明では分かりずらいと思いますので、興味のある方は本書を読んで頂きたいと思います。
前にご紹介した『合理性を超えた先にイノベーションは生まれる』とは考え方が正反対ですが、両方知っておいて、経営者としてのバランス、自分の立ち位置を考えるべきです。
参考ブログ:『合理性を超えた先にイノベーションは生まれる』
http://highlyeffective.naganoblog.jp/e1357452.html
どうぞご参考になさってください。

参考文献:『社長のための「非常識な会計」のルール』 村形聡 (日本実業出版社)
Hitoshi Yonezu at 10:00
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小宮一慶さんの『はじめてでもわかる財務諸表 危ない会社、未来ある会社の見分け方』を拝読いたしました。
小宮さんのご著書はこのブログで今まで20回以上ご紹介しております。全部は紹介しきれないので、二つURLを入れておきます。
参考ブログ:
「お金や地位は目的ではない」
http://highlyeffective.naganoblog.jp/e1098968.html
「質を高めることを目標にする」
http://highlyeffective.naganoblog.jp/e1087210.html
今回ご紹介するのは財務諸表の読み方を教えてくれる本です。簿記を学んだり、財務諸表をつくる経理の専門家のための本ではなく、中小企業の社長のように財務諸表を読む人のための本といえます。
会計や財務諸表などの本はつまらないと感じている方が多いと思いますが、私は結構好きです。書店をぶらついて、おもしろそうな本があると購入してしまいます。
好きな理由は、自分が気づいていなかった会計や財務の切り口を見つけることができるからです。少し違うかもしれませんが、私にとっては数学を学んだときのおもしろさのようなものです。発見があると、新鮮な見方で自社を見つめ直すことができて興味深いです。
この本で気づきを頂いたのは以下のことです。
1.ROE(株主資本利益率)よりROA(資産利益率)の方が大切である。(p147)
ROEはROAに財務レバレッジ(自己資本比率の逆数)をかけたものなので、ROEを上げるためには、自己資本比率を下げるのも一つの方法になってしまいます。このことは安全性を低下させることになります。
2.未来投資をしているかの調べ方(p181)
投資キャッシュフローの「有形固定資産の購入」が営業キャッシュフローの「減価償却費」よりも多いかを見ます。減価償却以上の再投資をしないと事業の維持は難しくなります。
3.売れなくてもたくさん作ったほうが儲かる(p228)
これは言われてみれば当たり前のことですが、私は気が付かなかったことです。全部原価計算の場合は、売り上げた分しか原価に入れないために利益の水増しが起こります。(在庫は増えてしまいますが)
私ももう46歳になって、大体のことは分かっているんだ、とおごりの気持ちがでてしまうことがあります。そこは謙虚にいかねばなりません。
専門家の方の本を読んだり、お話をお聞きするのは、自分の無知を自分に知らしめる意味があります。
とても分かりやすい本です。みなさまもぜひご一読くださいませ。

参考文献:『はじめてでもわかる財務諸表 危ない会社、未来ある会社の見分け方』
小宮一慶 (PHPビジネス新書)
Hitoshi Yonezu at 10:00
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林總(はやしあつむ)さんのご著書『世界一わかりやすい会計の授業』を拝読いたしました。
林さんは公認会計士、税理士で、LEC会計大学院教授を務められています。林さんのご著書は今までも何度かご紹介しております。
『貯まる生活』を読んで
http://highlyeffective.naganoblog.jp/e898984.html
『ドラッカーと会計の話をしよう』を読んで
http://highlyeffective.naganoblog.jp/e1161841.html
過去のムダな支出
http://highlyeffective.naganoblog.jp/e1162587.html
『50円のコスト削減と100円の値上げでは・・・』を読んで
http://highlyeffective.naganoblog.jp/e1173744.html
『世界一わかりやすい・・・』という題名からは会計の手法を教えてくれる本のように思えてしまいますが、スキルやテクニックを教えてくれれる本ではありません。会計の考え方を教えてくれる本です。会計について全く知らない人が読んでもよいのですが、少し分かっている人が読むと頭がよく整理されます。
経営者が読むのが効果的ではないかと思います。
林さんは、安易な人減らしは会社の経営に大きな傷を残す、といいます。
高品質の製品は、高度に訓練された従業員によってつくり出されます。つまり、いつでも削減可能な非正規社員でもつくることができる製品は、高付加価値製品ではないということです。しかも、他社の社員である派遣社員に高度な訓練をするはずもありませんから、派遣社員を多用するほど、ビジネスプロセスにおける価値変換効率は悪化し、知らぬ間に企業の技術力が低下していたのです。
また、外国でも労働力の質が日本の労働者と変わらなければ、あえて高い賃金を払って国内で生産する必要はなく、いったん円高に振れると企業は工場を海外に移してしまうのです。
要するに、付加価値の高い製品をつくる会社にとって、「固定費は固定的に生じるべき費用だから固定費」なのです。
『世界一わかりやすい会計の授業』 p174より引用
売上げが伸びない厳しい環境下において会社の利益を上げるためには、コストを削減しなくてはいけないという話になります。
コストを削減するということになると、変動費ではなくて固定費を削減しなさい、では人件費は固定費化されていませんか?というのが会計の先生からよく聞く道筋だと思います。
しかし、それはあくまでも結果的に数字をよく見せるための手法であって、企業の経営とは関係のないことでした。
数字だけを見ていると経営を見失ってしまうことがあるということです。
林さんは固定費は自然に増殖するものだとして、イギリスの政治学者、シリル・ノースコート・パーキンソンの発見した「パーキンソンの法則」を紹介されています。
第一法則「仕事は、その遂行のために利用できる時間をすべて埋めるように拡大する」
第二法則「支出の額は収入の額に達するまで膨張し」
第三法則「拡大は複雑化を意味し、組織を腐敗させる」
『世界一わかりやすい会計の授業』 p177より抜粋
「組織の拡大→ムダな仕事が生まれる→人を要求する」というわけです。ありますね、これ・・・・・・
林さんの本は切り口が独特で大変わかりやすいので、書店で見つけるといつも好んで購入します。
みなさまもぜひご参考になさってください。

参考文献:『世界一わかりやすい会計の授業』 林總 (中経出版)
Hitoshi Yonezu at 10:00
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林總さんのご著書『50円のコスト削減と100円の値上げでは、どちらが儲かるか?』を拝読いたしました。(タイトルには30文字制限があるので正式な題名を書ききれませんでした。)
林總さんは公認会計士、税理士、LEC会計大学院教授を務められています。1974年中央大学商学部卒業後、外資系会計事務所、監査法人勤務を経て、独立、現在は経営コンサルティング、執筆、講演活動などでご活躍されています。
このブログでも林さんのご著書を紹介したことがあります。
「『貯まる生活』を読んで」
http://highlyeffective.naganoblog.jp/e898984.html
「『ドラッカーと会計の話をしよう』を読んで」
http://highlyeffective.naganoblog.jp/e1161841.html
「過去の無駄な支出」
http://highlyeffective.naganoblog.jp/e1162587.html
林さんの会計の本は分かりやすく、私にとっては必ず新しい気付きを与えてくれます。
その根底にあるものはP.Fドラッカーの理論なんですね。あとがきにはそのことがはっきり書かれていますし、参考文献はドラッカーの『創造する経営者』と『現代の経営[上]』になっています。
東京経営大学の菅平ヒカリが、インターンとして働くファミリーレストランチェーンの業績の悪い店舗を立て直すというストーリーにのって、管理会計が学べるようになっている本です。
ストーリー自体は簡単ですが、要の部分を読みこなすには基本的な会計の知識が必要です。ある程度の知識のある方であればすいすい読んでいけると思います。
この本で私が初めて知ったのは、利益ポテンシャルという考え方です。
利益ポテンシャル(PP)は、限界利益を在庫金額で割ったものですが、現金を稼ぎ出す力を表しているものだそうです。
PPを分解すると、限界利益率(限界利益を売上高で割ったもの)と在庫回転速度(売上高を在庫金額で割ったもの)の積になりますので、分かりやすくなります。
たとえ限界利益率が同じ商品があったとしても、回転速度が遅ければ現金が寝てしまうので、資金が足りなくなってしまいます。
このストーリーでは、レストランのメニューの中でもPPの高い商品を見つけて、それをおすすめ商品にしていけばいい、ということになっていきます。
菅平ヒカリを指導する東京経営大学の安曇教授が言います。
「まずは顧客の視点に立つことだ。君たちは、ついつい『この料理なら客は満足するに違いない』と思いがちだ。そうではなく、ロミーズで食事をしないことも選択できる客の立場で考えなさい、ということなんだ」
このあたりはドラッカー的な香りがしますね。
林さんの本は勉強になりますので本当にありがたいです。
みなさまもぜひご一読ください。

参考文献:『50円のコスト削減と100円の値上げでは、どちらが儲かるか?』 林總 (ダイヤモンド社)
Hitoshi Yonezu at 10:00
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