2013年08月06日
池井戸潤さんの『オレたちバブル入行組』を拝読いたしました。
池井戸さんの直木賞受賞作『下町ロケット』はこのブログで紹介したことがあります。
『下町ロケット』を読んで
http://highlyeffective.naganoblog.jp/e812489.html
私は最近ほとんど小説を読まないのですが、この本を読もうと思ったのは、私自身がバブル期に新卒で金融機関に入社したという経験があるので、題名に親しみを感じたためです。
私の大学の同期生の多くはこの題名のごとく大手の銀行に就職しました。日本の金融機関が春を謳歌していたころです。
この本はTBSで「日曜劇場 半沢直樹」とうドラマとなって放映されているそうです。一昨日、見られた方も多いのではないでしょうか。視聴率が大変高いそうです。
番組のHPによると、主人公の半沢直樹の役は堺雅人さん、その妻の花の役は上戸彩さんです。小説では出番は少ないながらも重要な役割を果たす藤沢未樹の役は壇蜜さんです。壇蜜さんの配役は私の考えていたイメージとは少し違いました。もっと軽い感じの方が配役されるのかと思っていました。
話を知っているので、それぞれの俳優さんがどのような演技をされるのかな・・・・・・と想像しています。テレビがないので想像するだけで終わりです。どなたか後で私に教えてください。
私が読んだのは2007年12月第一刷(2013年7月第23刷)の文庫本ですが、元は2004年12月に文藝春秋より単行本として出版されています。
産業中央銀行大阪西支店の融資課長、半沢直樹が支店長からの命令で西大阪スチールに無理な融資を実行してしまうことが話の発端です。まもなく西大阪スチールは倒産してしまいます。なぜこんなことになってしまったのか、誰が誰をだましているのか、5億円の債権回収をかけて半沢課長が動きます。
半沢課長はバブル入行組です。言いたいことははっきり言う、間違っていることがあれば、たとえ上の者にも楯突いていくという勇敢な男です。
不誠実なお客さまに対してはこんなことを言ってしまいます。
次に口にした半沢の言葉は、怨念という名の表面加工で黒光りする毒々しさを孕んでいた。自然、言葉遣いまで変わった。
「東田は金を隠しているだろう。どこにある。どこの銀行の、どこの支店だ。知ってるのなら、いま吐け、波野。こうして穏便に話ができるのはいまだけだぞ。返事次第では、臭い飯を食ってもらうからな。手が後ろに回ってもいいのか。」
『オレたちバブル入行組』 p122 より引用
実際にはこれは言えないでしょうが、バブル入行組にはこういう強いイメージがあるのでしょうか・・・・・
私が勤めていたころの金融業界はいまとは世界が違う感じです。ここでは書けませんが、信じられないようなことが起こっていました。
私自身も当時は時代をよく認識していなくて、あまり勉強もせず、かといって同僚が結婚して幸せになっていく中、やりたいことのために独自の道を歩いていて、生き方が定まっていなかったことは否めません。
バブル入行組(バブル就職組)としては、大量採用でお荷物といわれるのではなく、力強い、明るい、元気がある、と言われたいですね!
いろいろな仕掛けがあって、おもしろいストーリーなので、どんどん読めてしまいました。
バブル入行組のみなさま、バブル期に就職された私の年令前後のみなさま、ご一読くださいませ。

参考文献:『オレたちバブル入行組』 池井戸潤 (文春文庫)
Hitoshi Yonezu at 10:00
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2013年06月26日
村山早紀さんのご著書『コンビニたそがれ堂』を拝読いたしました。
村山早紀さんは1963年生まれで、毎日童話新人賞最優秀賞、第4回椋鳩十児童文学賞を受賞された児童書の作家です。この本はもともと児童書として書かれたものですが、文章や漢字を増やして大人向けに書き直したものだそうです。(文庫版短い後書きより)
癒される小説としてどなたかが推薦されていたのを覚えていたのですが、上野駅の明正堂書店で見つけたので読んでみることにしました。(たまたまサイン本でした。)
帯には「じんわり温めて心の疲れをほぐします 温湿布みたいな本」と書かれています。五話の構成になっています。
たそがれ時のどうしても必要なときにだけ現れるコンビニ「たそがれ堂」。レジの中には長い銀色の髪に切れ長の金の瞳のお兄さんがいて、にっこりと笑っています。
お兄さんはその人の抱える問題を解決するものを売ってくれます。
たそがれ堂には、子供も、猫も買い物にきます。猫は人間になれるキャンディーを買います。
「子供のころこんなことを考えていたなあ~」と昔を思い出すような小説です。
読みやすい小説集です。疲れてしまった女性の方、心を落ち着けるために読んでみてください。

参考文献:『コンビニたそがれ堂』 村山早紀 (ポプラ文庫ピュアフル)
Hitoshi Yonezu at 10:00
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2013年02月02日
原宏一さんのご著書『ヤッさん』を拝読いたしました。
原宏一さんは1954年長野県に生まれ、水戸市で育ったそうです。『かつどん協議会』でデビューしましたが当時は鳴かず飛ばずだったそうです。作家としてのキャリアを捨てることを覚悟した2007年、ある書店員が『床下仙人』を猛烈にプッシュしてくれたそうです。『床下仙人』は啓文堂書店おすすめ文庫大賞に選ばれ、ベストセラーになりました。
『ヤッさん』はある会合で「読書のすすめ」の清水店長が推薦されていた小説です。その場で即売されていたので、買ってみました。2009年11月に単行本として刊行され、2012年10月に文庫本になりました。
この小説の主人公、ヤッさんは銀座を根城にするホームレスです。家はないですが、身辺は常に清潔にして、清く正しく生きています。
もともとは腕利きの調理人で、レストランの経営者でもあったヤッさんはグルメで、高級料理店と築地市場の情報を取り持つことで生計を立てています。双方にとって有益な情報をもたらすことで、飲食店や仲卸店で食事ができる恩恵を受けています。
ホームレスの方が飲食店に出入りしたり、食事をごちそうになったりというと、いくら清潔であるとはいっても、現実の世界では考えられないことです。私は飲食店の経営をしておりますので、衛生問題が非常に気になります。
ただこれは小説の話ですから、あまり考えすぎてもいけないのだと思います。
ヤッさんは食い逃げをした若者の身の上話を聞いて次のようにいいます。
「そんなもなあ、上っ面だ。そもそも同情なんてもの自体が上っ面じゃねえか。いいか、身の上話ってのは逃げなんだ。あたしはこんな身の上だから仕方ないって諦めたり、こんな身の上だから助けてって、だれがにすがりつくための逃げの道具でしかねえんだよ。そんなもんに頼っててどうすんだ。若えうちから身の上話にすがる根性でいたら、一生、身の上話に頼って生きてくようなやつになっちまうんだ」
『ヤッさん』 76pより引用
ヤッさんはこのように人生を説きます。
小説は六話に分かれていてどの話もおもしろいです。
たまにはこういう本もよいですよ。

参考文献:『ヤッさん』 原宏一 (双葉文庫)
Hitoshi Yonezu at 10:00
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