『下町ロケット』を読んで

2011年09月01日

 秋風の心地よい季節となりました。みなさまいかがお過ごしでございましょうか。

 日ごろはたいへんお世話になっております。誠にありがとうございます。

 私は読書といえば、ビジネスや経済の本ばかりで、小説はほとんど読まないのですが、ビジネスの要素がたくさん詰まった小説があるとの書評をみて、久しぶりに小説を読みたくなりました。
 
 第145回直木賞を受賞した池井戸潤さんの『下町ロケット』です。著者の池井戸さんは元三菱銀行の社員だったそうですから、企業を舞台とした小説にはリアリティがあります。

 この小説は下町の中堅企業、佃製作所の社長である佃航平が、大手企業の戦略に翻弄されながら、夢であるロケットの部品の大手企業への供給、およびロケットの打ち上げの成功へと向かって、公私に起こる様々な障害と戦っていく話です。佃製作所は売上高100億円の規模といいますから、中小企業のイメージよりは少し規模が大きいですね。

 日ごろから製造業のお客さまとお付き合いさせて頂いておりますが、私自身は工場見学しか経験がないために、実際にはどんな感じでお仕事をされているのか想像がつきませんでした。

 『下町ロケット』を読むと、製造業の技術の奪い合いは、戦争のようなものです。

 大手企業からの発注の突然の打ち切り、自社の利益のための競合企業への訴訟合戦、大企業社員の出世競争に関わる下請けいじめなど、正義と倫理の問題が次々と発生します。

 私がこの小説の最も大きな転換点だと思ったところは、目先のお金ばかりを重視して社長の夢の実現に非協力だった佃製作所の社員たちが、部品供給の検査のために訪れた帝国重工の社員たちに舐められたのをきっかけとして立ち上がる場面です。

 「こんなもんテキトーに流して、不合格ならそれで構わない、くらいに考えていた」
 江原が続けた。「だけど、実際はじまってみたら俺自身が否定されているような気がしたんだよ。お前らは所詮中小企業だ、いい加減だ、甘ちゃんだって。だけど、そうじゃないだろ?」

               池井戸潤著 『下町ロケット』より引用

 
 この場面では社長に全面的に賛成というところまではいかないのですが、お金中心だった彼らの心に、プライドという火がつきました。

 ドラッカーは組織について次のように述べています。

 組織の目的は、凡人をして非凡なことを行なわせることにある。天才に頼ることはできない。天才はまれである。あてにできない。凡人から強みを引き出し、他の者の助けとすることができるか否かが、組織の良否を決定する。同時に、組織の役目は人の弱みを無意味にすることである。要するに、組織の良否は、そこに成果中心の精神があるか否かによって決まる。

        『マネジメント 基本と原則[エッセンシャル版]』より引用


 組織が成果を出そうという意思で一致したとき、平凡が非凡に変わるのです。
 佃製作所の社員が立ち上がったのは、帝国重工の社員にぎゃふんといわせるような成果を出してやろうと考えたときでした。

 この小説は経営について考えさせられましたし、共感できるところがたくさんありました。

 私は、お金には絶対になびかないで、ロケットの夢を追い続ける佃航平社長の信念は大変立派なものだと感銘しました。

 ストーリーが面白いので一気に読めると思います。みなさまもぜひご一読ください。

 末筆となりますが、みなさまのご健勝、ご繁栄を心よりお祈り申し上げます。

 今月もどうぞよろしくお願いいたします。

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 参考文献:
 『下町ロケット』 池井戸潤 (小学館) 
 

 『マネジメント 基本と原則[エッセンシャル版]』 P.F.ドラッカー (ダイヤモンド社)
 

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