東京駅構内の書店「ヒントインデックスブック」で、ロングセラーとして、山のように並べられていた文庫本、志水辰夫さんの『行きずりの街』。
1992年度版「このミステリーがすごい!」の第一位、第九回日本冒険小説協会大賞受賞作というタイトルが光ります。
「時代の何がこの物語を欲するのか?」という帯のフレーズにひかれ、書店員さんのおすすめPOPにひかれ、中をぱらぱらとめくってみると、平成2年に刊行されているとのこと。
平成2年といえば、私が大学を卒業し、社会人になった年です。
平成元年に日経平均株価は終値最高値38,915円をつけ、翌年から株価は急降下、日本経済は下り坂を駆け降りるようにおかしくなっていきます。まだ誰も気づいていなかったバブル経済の末期でした。
どんな社会描写をしているのだろう?自分の記憶と重なる部分はないだろうか?
めったに小説を読まない私が、どうしても読んでみたくなりました。
平成6年に文庫本となり、私が今年購入したものは53刷となっています。売れ続けているのですね。
ミステリーをよく読まれる方には、突っ込みどころ満載のストーリーなのかもしれませんが、私は楽しく読むことができました。
主人公の国語教師が、勇敢に悪に立ち向かうのですが、その割には喧嘩に弱くて、すぐにやられてしまうので、ハラハラしました。
六本木界隈の街のとがった様子も詳しく描かれていて、何となく懐かしい感じがします。
志水さんの言葉を借りれば、六本木は、「不機嫌な顔をした人間をひとりも見ないことでも際立っている・・・」、今でもそうでしょうか。(最近有名人の事件もあったそうですが)
平成2年らしいと思ったのは、まだ携帯電話がなかったために、所在がつかめず、連絡がいちいち遅れてしまうこと。伝言を残すのが大切なこと。インターネットがないために、地図は書いてもらうのが当たり前だったこと。大学の郊外キャンパスの開発が一つの舞台になっていること・・・
で、
時代が求めているものとは、この小説の大きなテーマである、元教え子と教師の恋愛・・・
障害があっても、後ろ指を指されようとも、乗り越えていく愛・・・
いま、平成22年の日本の閉塞感・・・
平成2年の、何でもアリアリの、あのときは、確かにひどかった。
ひどかったけど、よかったこともあったのだ・・・
胸が苦しくなるような気がしました。

参考文献:『行きずりの街』 志水辰夫 (新潮文庫)
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