『大震災後の日本経済』を読んで

2011年09月22日

 『大震災後の日本経済』は、『「超」整理法』や『1940年体制』などの著書で有名な経済学者の野口悠紀雄さんが、震災後の日本経済の行方について述べた本です。

 2011年5月12日に第一刷が出版されていますから、いまは議論の前提条件が随分変わってしまいましたし、答えが出てしまっている部分もありますが、野口さんの考える復興策を知るために読んでみました。
 (野口さんの本は論理が整然としていていつも納得できますし、昔、『「超」整理法』を読んで書類の整理法を変えて、いまでも大変役に立っています。)

 この本の要点は、大震災後、生産設備の復旧が進んでも電力制約がボトルネックとなって生産力が回復しないために、増加した復興需要は超過需要となり、クラウディングアウトの状態になるということだと思います。
 クラウディングアウトにより、金利の上昇や円高による需要の調整が起こります。それを避けるためには復興財源を増税でまかなうべきだというのです。

 クラウディングアウトとは、マクロ経済学の教科書ではおなじみの論理です。政府が資金需要をまかなうために大量の国債発行をすると、市中金利が上昇し、民間需要を抑制するという現象です。

 節電や休業日の変更などの努力により、電力が足りなくなるという事態は避けられましたが、現在の円高、および生産設備の海外移転は、クラウディングアウトの結果であるといえなくもありません。

 野口さんは1ドル=50円台まで予想していたのです。

 復興需要が本格化すると、金融機関は資金需要にこたえるために、国債売却を余儀なくされるといいます。

 国債の売却が行われると、国債の価格が一挙に悪化することと、国には徴税能力以外に担保がないことの二点によって、金融機関にとって危険な状態が生じます。

 それを避けるために、日銀が出動して国債を購入すると、ハイパーインフレになる懸念があるそうです。

 供給面の制約に対応するためには、需要を削らなくてはならず、そのためには復興財源を増税でまかなうべきで、税金であれば、低所得者に配慮した負担分担が可能だというわけです。

 需要を削るということは、経済がある程度落ち着いてきたいまとなればあまり賛成できることではありませんが、クラウディングアウトを避けるという論理は当時日本経済を破綻させないために取り得る手段の一つだったと思います。

 復興の本を今頃読むのは遅きに失していますが、いま読むことで逆によく分かることもあります。
 経済学者といえども、お一人お一人まったく違う考え方をもっています。

 書店に並んでいる多くの経済本が感情や陰謀説に支配されていますが、この本は徹底的に経済学の論理で貫かれています。

 この本を読むには経済学の基礎知識が必要ですが、こういう本と教科書とでマクロ経済学を学ぶのもよいかもしれません。どうかご参考になさってください。

 (私の友人には本当の経済学者をはじめ、経済にお詳しい方が多くて、経済関係のブログを書くたびに、ドサッと批判メールを頂きますが、私は素人ですので、どうぞ大目に見てやってくださいませ。(笑))

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 参考文献:
 『大震災後の日本経済』 野口悠紀雄 (ダイヤモンド社)
 

 『「超」整理法』 野口悠紀雄 (中公新書)
 

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