先日、出張のためにA社の国際線(エアバスA320)に搭乗したときのことです。
ほぼ全ての乗客が搭乗し、後から入ってきた乗客が、オーバーヘッドビンに荷物をつめていました。私はシートベルトを締めたところでした。
通路をはさんだ隣りに座っていた中年の女性が、
「ねじが落ちてる!」
と通路を指さすのです。
通路を見ると、ワッシャーの付いた小さなシルバーのねじが一つ転がっていました。
私に促しているようなので、それでは、と思い、拾ってあげました。
ちょうどそこへCA(キャビンアテンダント)が通りがかり、この一部始終を見られてしまいました。
私はそのねじを落し物として、CAに渡しました。
そのCAは、私やその女性やその周りの乗客に、ねじに心当たりはないかと聞くと、そのねじをギャレーへもっていってしまいました。
これで一件落着かと思っていたら、先ほどの女性が
「あのねじは主人のトロリーバッグのものらしいから返してほしい」
というのです。
私はCAを呼び、先ほどのねじを持ってきてくれるように頼みました。
CAはご主人のバッグをわざわざオーバーヘッドビンからおろして、バッグのどの部分のねじなのか、バッグをひっくり返し一箇所一箇所確かめていました。
ところが、そのねじが該当するようなねじ穴はないのです。
女性は間違いにしぶしぶ納得したようで、CAもねじをもって再びギャレーへ消えていきました。
これでこの話は終わりだろうと思いました。
その後すぐのことです。
ドアクローズ直前の機内に、水色のつなぎを着た整備の男性が乗り込んできたのです。
彼は通路に跪くと、眼鏡をはずし、マグライトの光をねじに当ててその形状などを確かめると、客席の後ろやら、裏やらを詳細に調べていました。
「これは航空機のものではないです。」
そう言うと、彼はねじをCAに渡し、飛行機から降りて行きました。
CAは周りの乗客に
「お客さま、このねじは航空機のものではなく、運航の安全に支障がないことを確認いたしました。どうぞご安心なさってください」
と説明してまわったのです。
素人目に見てもそのねじは航空機のものとは思えませんでしたが、CAはねじが落ちていたことを見てしまったために、手順に従って、この問題を解決したのだと思います。
この事件の詳細については、のちほどデータとなって上司または会社の専門部署に報告されることでしょう。
隠してしまってもいいようなことを絶対に隠さないこと、そして、その際には離陸が遅れたとしても安全が最優先に判断されること。
この企業のマネジメント体制の徹底ぶりを感じた出来事でした。
Hitoshi Yonezu at 10:00
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