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さて、日本は世界でも有数の先進国というイメージがあると思いますが、日本生産性本部の調査によれば、2015年の日本の労働生産性は世界22位であり、一人当たりGDPも世界18位(37,372USD)となっています。世界第三位の経済大国である我が国も、一人当たりという計算でみると普通の国です。
ドラッカーは、30年も前に「先進国において緊急を要する社会的な課題は、サービス労働の生産性向上である」と指摘していました。
敗戦後の焼け野原から経済大国になるまで、我が国の経済を発展させてきた原動力は、傾斜生産方式などの産業政策の効果も大きかったでしょうが、生産性の向上、とりわけ、ドラッカーのいう肉体労働(manual worker)の生産性向上が相当寄与してきたと思います。先人たちの努力が今につながっているのです。
しかし、いまでは産業構造は大きく変わりました。我が国において第三次産業の占める割合は7割弱(昭和35年は4割弱でした)となり、世の中の大部分の仕事をサービス労働が占めています。少し古いですが、ドラッカーはサービス労働として次のような職種を挙げています。製図工、商店の店長、ハンバーガーショップの16歳の少年、皿洗い、清掃人、保険会社のデータ入力係・・・。いまではいろいろなサービス労働がありますね。
安倍内閣の「働き方改革」で進められている労働時間の短縮は、働く人の人生を豊かにするためのもので、誠に結構なことです。しかし、GDPの水準が一定だとしたら、単なる労働時間の短縮は個人の所得を減らすことになります。時給で働く人のことを考えれば分かります。時間数の減少は所得を下げますから、それを補うためには時給単価を上げる必要があります。時給単価を上げるには、企業にそれまで以上の利益が必要になります。労働時間短縮と所得維持とを両立するためには、生産性の向上が絶対に必要な条件です。
かつて工場労働において実現したものに匹敵する生産性の向上をサービス労働において実現することは、先進国社会にとっての最優先課題である。
実質所得が生産性を越えられないことは、経済学の公理である。サービス労働の生産性を急速に向上させないかぎり、この膨大な階層、かつての肉体労働者と同じくらいの規模にまで大きくなったサービス労働者という階層の社会的、経済的地位は低下していくほかない。
『P.F.ドラッカー経営論集』 p124より引用
働く人々がもっと幸せになるために、サービス労働の生産性向上は欠かせません。生産性向上の余地はまだかなりあると思います。政府の働き方改革は、時間短縮と生産性向上の双方を刺激するものであってほしいと願っています。
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参考文献:
『P.F.ドラッカー経営論集』 P.F.ドラッカー (ダイヤモンド社)

Hitoshi Yonezu at 10:00
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