遅ればせながら、村上春樹さんの小説『海辺のカフカ』を読んだ。近年私はめったに小説を読まない。村上さんの小説を読むのは、すごく久しぶりのことだった。
高校から大学の途中にかけて、私は村上春樹さんの大ファンで、当時出ていたほとんどすべての小説とエッセイを読んでいた。
ときはいわゆるバブル経済の真っ最中である。高校生で、まだ世間を知らなかったからなのだが、都会的でセンスがよい文章と、巧みなストーリーテリングに魅せられてしまった。
村上さんの小説は、ストーリーは面白いものの、決してわかりやすい展開ではない。
読者の想像力を試そうとするかのような難解な物語の展開に挑戦したかった。何としてでも、自分なりに理解をしようと思った。村上春樹を理解することで、何かを超えることができるのではないだろうかと希望をもっていたのである。
私が大学生だった昭和62年に『ノルウェイの森』が出版された。村上さんの小説にしては、ずいぶんわかりやすい物語だった。これを読んで、私は村上さんの小説を読むのはもうやめようと思った。
村上さんの小説には、読めば読むほど、孤独や寂寞や空虚を感じていたのだが、『ノルウェイの森』を読んで、ますます強くそのように感じてしまった。この流れに乗っていても、自分の人生にとってはどうしようもないなと思った。切りのない悪循環から抜け出したのである。
それから二十年余。村上春樹さんの小説からずっと遠ざかっていた。
昨年、ある先生が『海辺のカフカ』はおもしろいと勧めてくれた。信頼している人から推薦された本だから読んでみることにした。
やはり、ストーリーは面白かった。空想であろうが、現実離れしていようが、小説なんだから、そう思って読めば面白い。
何を語ろうとしているのかは、正直言って、よくわからない。アマゾンの書評を見ても、賛否両論いろいろな感想が掲載されている。
私は相変わらず、空虚も寂寞も孤独も感じる。
漠然とした感想だが、私が一つ勇気づけられたことは、見えない敵に対抗しようとする決意と強い実行力を感じられたことである。私がいう見えない敵とは、自分の中、自分の外、形あるもの、ないもの、精神的なこと、物質的なことなどすべてである。
納得できないもの、許せないもの、悪いと思うものがいたら、自分の魂の鳴動にしたがって、実際に行動すること。
そんな、人間の力強さを感じることができた。
『海辺のカフカ(上)』村上春樹著 (新潮文庫)
『海辺のカフカ(下)』村上春樹著 (新潮文庫)
Hitoshi Yonezu at 17:49
| Comments(0) | 読書感想
この記事へのコメントはこちらから