『経営者の条件』の第7章「成果をあげる意思決定とは」より引用します。
成果をあげるエグゼクティブは、意思決定は事実を探すことからスタートしないことを知っている。誰もが意見からスタートする。このことに不都合はまったくない。一つの分野に多くの経験をもつ者は当然自らの意見をもつべきである。一つの分野に長い間関わりながら自らの意見をもたないのでは、観察力と姿勢を疑われる。
人は意見からスタートせざるをえない。最初から事実を探すことは好ましいことではない。すでに決めている結論を裏づける事実を探すだけになる。見つけたい事実を探せない者はいない。
統計を知る者はこのことを知っており、したがって数字を信じない。彼は数字を見つけた者を知っているために、あるいは見つけた者を知らないために、数字に疑いをもつ。
P.F.ドラッカー『経営者の条件』p193より引用
昔のことを申しますが、私は大学院で計量経済学の手法を使って実証分析の論文を書いたので、数字にはいろいろな取り上げ方があることを知っています。
ほんの少しパラメーターを変えるだけで、結果は大きく変わりますし、データを取り上げる期間を少しずらすだけでも、結果を操作することができたのです。ドラッカーのいう「見つけたい事実を探せない者はいない」ということです。
大学院では純粋に研究の目的で真実を探求していましたので、誰にも見られることにない研究だったとしても、データ改ざんをするなどということは考えにも及びませんでした。最近話題になっているような研究における恣意的な操作などは、いかなる理由があったとしてもそのような行為をすること自体が全く信じられないのです。
さて、話を戻しますが、かように「事実と呼ばれるものは事実ではない」ということです。
日本ではマスコミの影響が強すぎると思いますが、テレビも新聞も政府発表もすべてが事実ではない、と思って聞いていたほうがいいのです。
したがって、現実に照らして意見を検証するための唯一の厳格な方法は、まず初めに意見があること、またそうでなければならないことを明確に認識することである。こうした認識があって初めて、意思決定においても科学においても、唯一の起点として仮説からスタートしていることを忘れずにすむ。
P.F.ドラッカー『経営者の条件』p193より引用
ここは大切ですね。
すべては仮説からスタートしているのです。
いかに権威のある機関が発表したものだとしても、それを安直に「真実だ」と判断するのは間違いの始まりです。

参考文献:
『経営者の条件』 P.F.ドラッカー(著) 上田惇生(訳) (ダイヤモンド社)
”The Effective Executive” P.F.Drucker (Harper Business)
Hitoshi Yonezu at 10:00
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