前回は『経営者の条件』第6章から、ベル電話会社のセオドア・ヴェイルの意思決定についてご紹介しました。
続いてGMのアルフレッド・スローン・ジュニアの例が紹介されています。
1922年にスローンが社長に就任したとき、GMは事業部長たちの割拠する連邦でした。部長たちはGMとの合併前はそれぞれの社長だったために、事業部を自分の会社としてマネジメントしていました。
そのときヴェイルはどのような意思決定をしたのでしょうか。
スローンはそのような状況を合併会社に特有の問題としてではなく、あるゆる大企業に共通する問題としてとらえた。スローンによれば大企業にも統一と統制が必要だった。真に権力をもつトップが必要だった。しかし同時に現場においては熱意や強さが必要だった。
事業を運営する者には自由を与えなければならない。責任と責任に伴う権限を与えなければならない。何ができるかを示す機会を与え、あげた業績に対して報いなければならない。
P.F.ドラッカー『経営者の条件』p162より引用
起きている問題がどのような種類の問題なのかを見極めることは重要です。一般的な問題なのか、本当に特殊な問題なのか、それによって解決の方法は大きく変わるからです。
当時の状況をあらゆる大企業に共通する問題として認識したことがスローンの優れたところです。
しかし当時、スローン以外の誰もが、この問題を個々の人間の問題として理解し、勝利者となる者が握る権力によって解決されるべき問題と見ていた。これに対しスローンは、問題を組織構造によって解決すべき問題として見た。そして彼が構想した組織構造が、運営における自治と、方向づけにおけるバランスを図るものだった。
P.F.ドラッカー『経営者の条件』p162-163より引用
前回のヴェイルと、今回のスローン、意思決定の特徴は何だったのでしょうか。
ヴェイルとスローンの意思決定は、それぞれ全く異なる問題を扱い、それぞれ際立って特殊な解決策をもたらしたにもかかわらず、いくつかの重要な共通点をもっていた。すなわちそれらの意思決定は、すべて最高の概念的水準において問題と取り組んでいた。いずれも何についての意思決定かを検討して原則を明らかにした。換言するならば、それらはすべてその時々の個々のニーズに対する対応としてではなく、戦略的な意思決定として取り組まれていた。
それらの意思決定はすべて社会的なイノベーションをもたらすものだった。いずれも基本的な議論を引き起こすものだった。事実彼ら二人が行った五つの意思決定はすべて、当時誰もが知っていたことと正面から対立するものだった。
P.F.ドラッカー『経営者の条件』p163より引用
最高の概念的水準において取り組んだ意思決定であった、というところが重要ですね。
一つ一つの事象に対応するのではなく、より上位における段階で戦略的に問題を解決したのです。
日々の経営活動において、こまごまとしたことをすべて見てまわり、自分で決めたいのが社長です。
しかし、エグゼクティブたる社長がなすべきことは、より大きな概念において、その問題を解決することです。
社長には表面だけを見るのではなく、問題の本当の所在を見極め、企業や社会を変える大きな意思決定をすることが求められています。

参考文献:
『経営者の条件』 P.F.ドラッカー(著) 上田惇生(訳) (ダイヤモンド社)
”The Effective Executive” P.F.Drucker (Harper Business)
Hitoshi Yonezu at 10:00
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