ドラッカーの『経営者の条件』第6章「意思決定とは何か」より引用します。
意思決定はエグゼクティブの仕事の一つにすぎない。通常、時間もわずかしかとらない。しかし、意思決定はエグゼクティブに特有の仕事である。成果をあげるエグゼクティブを論ずるにあたって、意思決定は特別の扱いを受けるに値する。地位のゆえか知識のゆえかは別として、組織や組織の業績に対して重大な影響を及ぼすような意思決定を行うことを期待されている者こそエグゼクティブである。エグゼクティブは成果をあげるために意思決定を行う。
P.F.ドラッカー『経営者の条件』p154より引用
原文では次のように表現されています。
Decision-making is only one of the tasks of an executive.It usually takes but a small fraction of his time.But to make decisions is the specific executive task. Decision-making therefore deserves special treatment in a discussion of the effective executive.
Only executives make decisions.Indeed,to be expected---by virtue of position or knowledge---to make decisions that have significant impact on the entire organization,its performance,and results defines the executive.
Effective executives,therefore,make effective decisions.
”The Effective Executive” p113
意思決定はエグゼクティブの仕事の一つにすぎません。
しかし、意思決定はエグゼクティブにとって「特有の仕事」である、とドラッカーはいいます。
「特有の」の部分を原文でみると、specificです。この言葉だけが斜体文字になっています。よほど強調したかったのでしょうね。
「特有」とは「そのものだけが特に持っている様子」(新明解国語辞典)という意味です。
一方『経営者の条件』の序章では次のように述べられています。
意思決定とはトップが行うものであり、トップが行う意思決定だけが重要であるかのごとき議論がある。大きな間違いである。組織としての意思決定はスペシャリストから現場の経営管理者まであらゆるレベルで行われている。知識を基盤とする組織では、それぞれの意思決定が重要な意味をもつ。知識労働者とは、自らの専門分野、例えば税務については他の誰よりも知っているべき者であり、その意思決定は組織全体に大きな影響を与えるはずのものである。
したがって意思決定の能力は、組織のいかなるレベルにおいても、致命的に重要なスキルであるといわなければならない。知識を基盤とする組織では、このことを周知させておくことが特に重要である。
P.F.ドラッカー『経営者の条件』p9-10より引用
トップの意思決定について言及されています。
この部分を読むと、エグゼクティブとトップとは違う意味のことであることが分かりますね。
知識社会においては、どの現場の、どの職階においても、組織に影響を与えるような意思決定を行う者はエグゼクティブである、といえます。エグゼクティブとは、決してトップのことを意味するのではありません。
そして、エグゼクティブにとって、意思決定は「特有の仕事」なのです。

参考文献:
『経営者の条件』 P.F.ドラッカー(著) 上田惇生(訳) (ダイヤモンド社)
”The Effective Executive” P.F.Drucker (Harper Business)
Hitoshi Yonezu at 10:00
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