ドラッカーの『経営者の条件』第2章「汝の時間を知れ」より引用します。
すなわち成果をあげるべき者が行っている仕事の膨大な部分は、ほかの人間によっても十分行うことができる。
通常使われている意味での権限移譲は間違いであって人を誤らせる。しかし自らが行うべき仕事を委譲するのではなく、自らが行うべき仕事に取り組むために他の人にできることを任せることは、成果をあげるうえで必要なことである。
P.F.ドラッカー 『経営者の条件』 p61より引用
面倒くさい仕事だから、大変な仕事だから、という理由で、権限や仕事を部下に委譲してしまうのは間違いですね。
「部下が育ってきたからこの仕事をやってもらおう」という視点もエグゼクティブとしてはおかしいのではないでしょうか?
自分が抜けて落ちています。
権限移譲は自分が楽になるために行うのではないのです。
ドラッカーは「自らが行うべき仕事に取り組むために他の人にできることを任せる」ことが正しい権限移譲だといいます。
権限委譲をして空いた時間に、取り組むべき仕事があるでしょうか?
「なすべき仕事」がなければ、権限移譲は成果に結びつきません。
原文では次のような文章です。
Altogether, an enormous amount of the work being done by executives is work that can easily be done by others, and therefore should be done by others.
"Delegation" as the term is customarily used, is a misunderstanding ---is indeed misdirection. But getting rid of anything that can be done by somebody else so that one does not have to delegate but can really get one's own work---that is a major improvement in effectiveness.
”The Effective Executive” P.F.Drucker (Harper Business) p38
『七つの習慣』では、権限移譲のことをカタカナで「デレゲーション」と表現しています(2003年初版第45刷)。こちらでは、委譲する側ではなく、委譲される側に焦点が当てられています。
完全なデレゲーションは、手段ではなく結果に、焦点を合わせている。手段を選択する自由を相手に与え、結果に責任を持たせるのである。当初は、ほかの方法よりも時間がかかる。しかしこれは、のちに何倍もの利益を上げるための投資と考えるべきである。
『7つの習慣』(初版第45刷) p247より引用
ずっとドラッカーを読んでいて、久しぶりに『7つの習慣』を読むと、全然違うことが分かります。比べるのも変ですが、ドラッカーのほうが日本的です。
どうぞご参考になさってください。

参考文献:
『経営者の条件』 P.F.ドラッカー(著) 上田惇生(訳) (ダイヤモンド社)
”The Effective Executive” P.F.Drucker (Harper Business)
『7つの習慣』 スティーブン・R・コヴィー (キングベアー出版)
Hitoshi Yonezu at 10:00
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