引頭麻実さんの編著書『JAL再生 高収益企業への転換』を拝読いたしました。
引頭さんは一橋大学法学部卒業後、1985年大和證券へ女性総合職第一期生として入社されました。証券アナリスト、ストラテジスト、投資銀行業務に従事され、2009年大和総研の執行役員に就任しました。現在は大和総研執行役員、コンサルティング本部副本部長を務めておられます。
この本は経営破綻後わずか2年8カ月で東京証券取引所に再上場を果たしたJAL(日本航空)再生の経緯をまとめたものです。JALが再生計画を上回るスピードで急激に再生したことはよく知られていますが、その裏側にどのような苦労があったのかはあまり知られていないのではないでしょうか。この本を読めばJAL再生の経緯を詳しく知ることができます。
再生をした要因にはいろいろなものがありますが、私はこの本を読んでみて、会長として乗り込んだ稲盛和夫さんのフィロソフィの浸透とアメーバ経営の導入が最も大きな貢献をしたのではないか、と感じました。
稲盛さんはフィロソフィを大切にしますが、なぜ企業には哲学や倫理が必要なのでしょうか。
それらは社員のとっての「拠りどころ」だからです。
”拠りどころ”とは、換言すれば、価値観であり行動規範である。価値観や行動規範が社員間で共有される最大のメリットは、全社員が同じベクトルを持つことによって、会社の隅々まで社員ひとりひとりの力を最大限に発揮してもらうことができるということ、社員が安心して伸び伸びと仕事に打ち込めるとういことにほかならない。
『JAL再生 高収益企業への転換』 p58より引用
稲盛さんはJALの組織改革に取り組まれました。掲載されている稲盛さんのインタビューから引用します。
就任当初、JALで私が感じた違和感は、本社の経営企画というところがどうも中枢で、ここであらゆる企画がなされ、さまざまな指示が出てくるということでした。経営企画にいた人たちが、過去にいた人たちも含めて全組織にいるわけです。
その人たちは、エリート集団を形成していて、非常に頭がよい。よい学校を出て、JALのなかでもエリートコースを歩んできた人たちでした。非常に丁寧な言葉遣いではあるが、まさに慇懃無礼というか、内心はそうではないということが、顔にも態度にも全部出ているわけです。そして、どちらかというと冷たい。理論ばかり、理屈ばかりです。そんなことで、3万人からの従業員を任せるわけにはいかない、そう感じました。
『JAL再生 高収益企業への転換』 p146より引用
このようなエリートの集団に稲盛さんは基礎的な人間教育をされました。
人間としての倫理観をベースにして、あなたは行動したり、発言したりしているのですかと。していないじゃないですか。ただ理屈ばっかりで人を引っ張っていこうとしても、人は動くわけはありません。そんなことを懇々と話すなかで、ひとりふたりと相槌を打ちはじめました。「なるほど、そうやな」と。
『JAL再生 高収益企業への転換』 p147より引用
サービスに対する考え方も大きく変わりました。サービスとは瑕疵さえなければよいのか?という問題です。
座席のリクライニングを倒す方法が分からなくて、飛行中ずっと座席を直立させたまま過ごした、というお客さまからのクレームがありました。
かつてのJALなら、説明書に明示されているのに使用方法を理解しなかったお客さまのほうが悪い、という論理がまかり通っていただろうといいます。
「(前略)しかし、本当にそうなのでしょうか。リクライニングが正常に使えず、直立のまま、ニューヨークから戻っていらしたとすれば、お客さまが300ドルの価値を享受できなかったのは、厳然たる事実ではないでしょうか。お客さまとしても、納得できないのは当然でしょう。
では、何が悪かったのでしょうか。それは、客室乗務員が『おかしい』と思わなかったということです。リクライニングでリラックスするために、わざわざ300ドルを支払ったのに、ずっと直立で搭乗されている。このことに対して『おかしい』と気づくべきなのです。ちょっとお声をおかけすれば、『これ動かないけれど』と言っていただけたはずです。そこまで徹底しないと、本当のサービスとは言えないのです」
『JAL再生 高収益企業への転換』 p164より引用
稲盛会長の指導の下、JALは素晴らしい企業に生まれ変わったのだと思います。
基本的なことを正し、徹底されたという、非常に分かりやすい改革でした。
みなさまもどうぞご参考になさってください。

参考文献:『JAL再生 高収益企業への転換』 引頭麻実 (日本経済新聞出版社)
Hitoshi Yonezu at 10:00
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