C.ダグラス・ラミスさんの『経済成長がなければ私たちは豊かになれないのだろうか』を拝読いたしました。
ラミスさんは1936年サンフランシスコ生まれの政治学者です。カリフォルニア大学バークレー校を卒業、60年には海兵隊員として沖縄に駐留されました。80年から2000年まで津田塾大学教授を務められ、現在は沖縄を拠点として、執筆や講演などを中心に活躍されているそうです。
この本は題名になっている経済成長だけではなく、戦争、安全保障、日本国憲法、環境などについて、現在敷衍されている常識が本当に正しいのかを問うものです。
2004年9月に初版第一刷が発行されています。しばらく前の『週刊現代』のコラムで大橋巨泉さんがこの本を紹介されていたのが読むきっかけです。私が購入したときには古書しかなかったのですが、いまでは新しいものも買えるようです。
考え方の根底はマルクス主義で、私からみると納得しずらい面もありますが、ところどころに鋭い指摘があり、ハッとさせられます。
ゼロ成長を目指す歓迎するということは消極的な政策ではありません。船の例で言うと、ただエンジンを止めて何もしない、ということではなく、逆に経済成長よりもはるかに面白いプロジェクトを積極的に取り上げることを意味します。物質的な豊かさではなく、本当の意味での豊かさを求める社会、そして正義に基づいた社会をどうやって作るか。経済成長とはまったく別の、もっとずっと面白い歴史的なプロジェクトを推進することになると思います。
そういう社会を求める過程を、私は暫定的に「対抗発展」(カウンター・デヴェロップメント)と呼んでみたいと思います。
『経済成長がなければ私たちは豊かになれないのだろうか』より引用
対抗発展では、経済成長を否定し、人間社会の中から経済という要素を少しずつ減らすのだそうです。
それは、一つにはエネルギー、経済活動にかかる時間、値段のついたものなどを「減らす発展」、もう一つは経済以外の価値、経済以外の活動、市場以外の楽しみ、行動、文化など「経済以外のものを発展させること」です。
仕事中毒も、消費中毒も経済発展から生まれてきたものなのだそうです。
そうやって我々は経済活動の中の「人材」になってしまっています。人材から普通の人間にもどること、これが対抗発展の目的の一つだそうです。
資本主義が当たり前になってしまっている私などが読むと新鮮な感じがします。ときには逆から見てみることも必要だと感じました。
原子力の問題などは震災後の状況をみるにつけ、かなり核心を衝いた見方をしているように思います。
ご興味のある方は読んでみてください。

参考文献:『経済成長がなければ私たちは豊かになれないのだろうか』
C.ダグラス・ラミス (平凡社ライブラリー)
Hitoshi Yonezu at 10:00
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