アトゥール・ガワンデさんのご著書『アナタはなぜチェックリストを使わないのか?』を拝読いたしました。
ガワンデさんは外科の医師で、ブリガム・アンド・ウィメンズ病院内分泌外科、ハーバード大学医科大学及び公衆衛生大学院准教授を務められています。2006年にはマッカーサー・フェローを受賞されました。世界保健機関のプログラムである「安全な手術が命を救う」チェックリスト実施マニュアルの作成を主導されています。
チェックリストとは単純なものですから、そんなものを作らなくても日常の業務はできるよ、と言われそうですが、実際の業務においてはかなりの手順が飛ばされているのです。
2001年にジョンズ・ホプキンス病院の集中治療の専門家、ピーター・プロノボスト医師は、集中治療室で行われている数百の業務のうちの一つ、中心静脈カテーテルを挿入する際の感染防止のためのチェックリストを作りました。
1.石鹸で手を洗う
2.患者の皮膚をクロルヘキシジン殺菌する
3.滅菌覆布で患者を覆う
4.マスク、滅菌ガウン、滅菌手袋をつけ、カテーテルを挿入する
5.刺入点をガーゼなどで覆う
『アナタはなぜチェックリストを使わないのか?』より引用
このチェックリストは医師でなくても意味を理解できる簡単なものだと思いますが、看護師に医師を一ヶ月間観察させると、三分の一以上の患者で一つ以上の手順が飛ばされていることがわかったそうです。
プロノボスト医師とそのチームは病院の役員を説得し、医師が一つでも手順を抜かしたらカテーテル挿入を止める権限を看護師に与えました。
このチェックリストの利用開始から一年後、カテーテル挿入から10日間の感染率は11%から0%に下がり、その後15ヶ月間にもわずか2件しか感染は起こらなかったそうです。
彼はアメリカ中を回りチェックリストの普及を進めましたが、現場での治療に忙しい医師にはなかなか理解されず、なかには馬鹿にされたと思い、憤慨した医師もいたそうです。
2003年ミシガン州病院協会が、中心静脈カテーテルのチェックリストをミシガン州のすべての病院に導入しました。
プロジェクト開始から3カ月でミシガン州のICUにおける中心静脈カテーテルの感染率は66%下がり、多くの病院の四半期のICU感染率はゼロになったそうです。
人を死から救う鍵ががチェックリストだったとは驚きです。
人を信用するのはよいですが、人の行なったことを信用してしまうのは、仕事をするうえではまだ甘さがあるのではないでしょうか。
ほとんどの人は自分を信じていると思いますが、その信じている自分でさえ、簡単なことを忘れてしまったり、小さなミスをおかしたりします。
それを防ぐのがチェックリストです。チェックリストは人の能力に頼らない手法です。
この手法は他のすべての業種に適応できると思います。
みなさまもぜひご参考になさってください。

参考文献:『アナタはなぜチェックリストを使わないのか?』
アトゥール・ガワンデ(著) 吉田竜(訳) (普遊舎)
Hitoshi Yonezu at 10:00
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