鶏頭の十四五本もありぬべし

2010年10月22日

 
鶏頭の十四五本もありぬべし        正岡子規


 この句は子規の有名な俳句ですね。中学校の国語の教科書に掲載されていて、先生から学んだ記憶があります。

 中学生だった私は、鶏頭?と聞いて、けいとう?けいと?毛糸?どんなものなのか全くイメージがわきませんでした。

 何かの折に写真を見せてもらい、その姿を知ったときに、真っ赤なおどろおどろしい姿にぎょっとしたものです。あの毒々しい存在感があるからこそ俳句になるんだな・・・と納得しておりました。

 中西進さんの『詩心』によれば、この俳句は、平凡な情景をただそのまま示しただけの「痴呆的な」作ではないか、という酷評もあるのだそうです。


 
瓶にさす 藤の花房 短ければ 畳の上に 届かざりけり  正岡子規


 この短歌についても、当たり前の姿を詠んだものとして同類の非難を受けているのだそうです。

 中西進さんは、「鶏頭にしても藤にしても、これほどに対象の本性を表面から消し、ひたすらに凡庸な姿に観察を深化させていった子規の、風物はこわい」・・・と評価をされています。


 私は、藤の花は見たことがあるだけですが、垂れてこそ本来の藤の花が、花瓶に挿しても、畳に届かなくてやや間抜けな感じがまざまざと脳裏に浮かんできて、面白い情景をとらえているなあと感心します。

 両方とも、ただ観ているだけのような表現ですが、とらえ方が芸術だと思います。
 
 みなさまはどう思われますでしょうか。 

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 参考文献:『詩心 永遠なるものへ』 中西進 (中公新書) 
 
  

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秋来ぬと

2010年10月03日

 秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる      

                 藤原敏行 <古今集・巻四・秋歌上・一六九>


 今年の夏は大変な猛暑で、9月になってもまだ暑かったので、いつになったら秋になるのだろう・・・と思っているうちに秋になっていました。
   
 この有名な和歌で藤原敏行が感じたような瞬間がないままに、ガラッと秋にかわってしまったような気がします。

 10月になったら、秋一色となり、落ち葉は舞っていますし、ブーツをはいている人、コートを着ている人は見かけますし、秋刀魚も、きのこも、梨もおいしいです。

 松尾芭蕉と同時期に活躍した俳諧師、上島鬼貫はこの和歌を口語化することで俳諧化しました。

 
そよりともせいで秋立つことかいの          鬼貫


 敏行の感じた情も、鬼貫の感じた情も、いま我々が感じている情と、全く変わりはありません。

 平安時代、江戸時代とは、全く違う世の中になりましたが、日本の秋は着々とめぐってきますし、日本人の感受性は脈々と受け継がれています。

 とてもありがたい気持ちになります。


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 参考文献:
 『和歌の解釈と鑑賞事典』 井上宗雄 武川忠一 (笠間書院)
 

 『百人一句 俳句とは何か』 高橋睦郎 (中公新書)
 
  

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暑そうな俳句

2010年07月27日

 
曲巷(きょくかう)に日覆(ひおひ)かさなる暑さかな     青々



 『百人一句』によると、この句は子規門の松瀬青々の句です。

 この句の情景は、大阪の場末のようです。曲がりくねった街並みに重なる日覆は、暑さ気分を余計に増してしまいます。


 真夏の午後の商店街で、八百屋さんや洋服屋さんの軒先にある日除けは、太陽の光を一直線に受けて、オレンジ色にギラギラと輝きます。
 そこを通ろうとすると・・・想像するだけで暑くなってしまいますね。

 大きな木が一本植えられていれば、その木陰はとても涼しそうに思えますのにね・・・・

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 参考文献:『百人一句』 高橋睦郎 (中公新書)
 
  

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扇風機

2010年06月19日

 
美容院今も扇風機を回す   米林外喜子 (築港)


 クーラーが当たり前の時代になりましたので、お店などお客さまの集まるところで扇風機というのは見かけなくなりました。
 扇風機のまわっている美容院といいますと、昭和40年代ころの雰囲気を想像します。昔ながらの美容師さんが頑張っておられるのでしょうね。

 うちの会社も、お客さまのいらっしゃる場所と、キッチンなど食品を扱う場所はクーラーがはいっていますが、私のいる部屋はクーラーは設置しておらず、扇風機が回っています。

 お客さまも社員もいなくなると、深夜の静まった部屋には、扇風機と私の二人です。私から見ると扇風機は遊んでいるように見えます。

 
首降りて一人遊びの扇風機   岩城君子 (甘藍)


 暑がりの私ですが、会社の自分の部屋にクーラーがなくても涼しい気持ちで過ごそうと努力しています。もっとも、外に出ていることの方が多いのですが。
 同じ部屋にいる社員さんたちも、私にクーラーを入れてくれと要求することもなく、心の中で涼しさを感じてくれているようです。(たぶん・・・)

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 参考文献:『角川俳句大歳時記 夏』 (角川書店)
   

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クールビズと衣更え

2010年06月10日

 越後屋にきぬさく音や衣更           其角


 大酒遊興して馴染みの遊女のもとに一泊した朝帰り、たまたま通りかかった駿河町の越後屋の前で「きぬさく音」を聞き、いささか重たくなった酒びたりの生活とも別れて、新しい生活に衣更えしたいものだ、と裏を読めば、一句の趣は格段に深くなる。(『百人一句』より引用)




 久しぶりにに営業にこられた大手銀行の行員の方が、

 「すみません、6月からクールビズなので、ネクタイなしで失礼いたします」

 と言った。ジャケットに白いシャツを着て、襟元はすかすかとしている。
 

 数年前にクールビズが盛り上がった時から、6月にクールビズの服装にできることを楽しみにしていた。

 その後、どうもその普及が完全ではなかったので、いまではネクタイを外すことを何となく躊躇してしまっている。

 お客さまがネクタイをしておられるのなら、私もしなくては、と思ってしまう。

 ハワイのアロハシャツのように、正装として認められていれば、話は早いのに。

 スーツからアロハに衣替えするのなら、私も其角の感じたように「生活を変えるぞ」と思えるかもしれない。

 遊女のもとに一泊なんて、粋なことはしていませんがね・・・

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 参考文献:『百人一句』 高橋睦郎 (中公新書)
   

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蛸壺やはかなき夢を夏の月

2010年06月06日

       蛸壺やはかなき夢を夏の月   芭蕉

 


 昨日の深夜の信州上田の月です。

 随分赤く、そして小さく見えました。変わった月だなと思い、思わずカメラを取り出しておりました。

 月から見たら、私の人生など、蛸壺の蛸と同じこと、本当にはかないものなのだろうと思います。

 
 そうひらきなおったら、これから何でも出来そうですね。
     
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 参考文献:『角川俳句大歳時記 夏』 (角川書店)
   

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不忍池

2010年06月05日

          蓮池の深さわするる浮葉かな     荷兮 (春の日)

 
 


 初夏を迎えた上野の不忍池です。

 蓮の若葉が水面を抜き、大きく葉を広げようとしている頃合いでした。

 荷兮は、蓮の浮葉をみていると、その下の池の深さを忘れてしまうといいます。

 私も子供のころは、蓮の葉の上をすばやく走れば、沈むことなく池を渡り切れるのではないかと本気で考えていました。

 それがありえないことだとわかったのは、フィールドアスレチック(今はあまり聞きませんね)に遊びに行ったとき、池に浮いた材木の上を走って渡る遊具で、ずぶずぶと池に落ちたからです。


 あとしばらくしますと、不忍池の蓮の葉ももっと厚く、もっと大きくなります。

 その密集ぶりを目の当たりにしますと、もしかしたら、この葉の上を走れるのではないか・・・と、またまた考えてしまいます。
 
 山本荷兮かけい)は、江戸時代の尾張名古屋の俳人です。生業は医者だったそうです。もともとは芭蕉の門下でしたが、内紛により蕉門と袂を分かち、晩年には復古調の連歌師になったそうです。


 人びとは、池の周りで束の間の休息をとっています。池の一帯が癒しの雰囲気に覆われていました。

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 参考文献:『角川俳句大歳時記 夏』 (角川書店)
 
 参考サイト:『山本荷兮』
 http://www2.yamanashi-ken.ac.jp/~itoyo/basho/whoswho/kakei.htm  

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蜂の怒り

2010年06月04日

 
木ばさみの白刃(しらは)に蜂のいかりかな      白雄



 庭の花木を切ろうとしてか、木鋏を動かすとその白刃の反射する陽光に射られて、花にいた蜂が怒りの表情を見せて飛ぶ、という。(『百人一句』より引用)


 加舎白雄は上田藩松平家の家臣、加舎忠兵衛吉亨の次男として江戸深川の藩邸に生まれた。二十歳代半ばで俳諧を知り、烏明に師事したが、その才能は師を越えていたといわれ、烏明派に対抗して自門の経営に努め、その弟子は4000人を数えたという。

 ここ上田市では、芭蕉よりも、蕪村よりも親しまれている俳人だ。
 
 前に、地元の商工会で街路樹の蜂の巣の駆除をしたときのことだ。

 蜂の巣に殺虫剤をスプレーすると、蜂がブーンと大きな羽音を立てて、我々に向かってきた。かなり怒っているようだった。

 白雄は花の木を切ろうとしたわけだが、江戸時代も今も、蜂が怒るのはそう変わるものではないのだ。

 話が少々汚くなってしまうが、私の家の部屋に入り込んできた蠅も、蚊も、叩こうとすると、蜂と同じように、まるでターボを効かせたかのように、ブォーンと向かってくる。

 たしかに怒っている。白雄は面白いことに気がついたものだ。

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 参考文献:『百人一句』 高橋睦郎 (中公新書)
   

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ジェイン・オースティンの読書会

2010年04月14日

 しばらく前から、ビジネス読書会を開きたい、と思っていた。決めたビジネス書を各自が事前に読んできて、読書会で意見を発表し合う純粋な勉強会である。

 講師の先生に教わる勉強会、セミナーなどは数多あるが、あらかじめ自分が本を読んできて、自分の意見を主張し、議論をしなくてはいけない機会はあまりないからである。教わるばかりではなく、自分たちで考える場をつくりたいと思った。

 最近、都会でもビジネス読書会が流行っているそうで、日経新聞でも取り上げられていた。勉強をしたいビジネスパーソンが、早朝や夜や土曜日などの時間に集まって、読書会を開いているらしい。

 あるとき、週刊誌を読んでいたら、どなたのコラムだが忘れてしまったのだが、読書会を始めるなら、『ジェイン・オースティンの読書会』という映画を見ておいた方がよい・・・と書かれていた。

 それ以来、ずっと気になっていたのだが、ようやくその映画を見ることができた。ジェイン・オースティン(1775~1817)とは、イギリスの有名な女流作家であり、『ジェイン・オースティンの読書会』とは、カレン・ジョイ・ファウラーが2004年に書いた同名小説をもとにした映画である。

 私の考えていたビジネス読書会とはまったく違ったもので、あまり参考にならなかった。でも、アメリカ人の男女関係に対する考え方がよくわかる映画だったので興味のある方はどうぞ。
 
 ビジネス読書会の企画を練ろう。
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 参考DVD:
 『ジェイン・オースティンの読書会』 ロビン・スウィコード監督(ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント)
 
  

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村上春樹さんの壁と卵

2009年02月19日

 作家の村上春樹さんがイスラエル最高の文学賞「エルサレム賞」を受賞された。イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザ地区に攻撃をしたばかりのこと、受賞を拒否すべきという論調もあり、受賞すべきかどうか、村上さんは悩んだ。熟慮の末、賞を受けて、現地でスピーチをすることを選んだという。

 その演説は、社会のシステムを高い壁に、人間をそれにぶつかって壊れていく卵に例えて、いかに卵に非があろうとも、弱い立場である卵の側に自分はついていたいと主張したものである。

 以下はThe Jerusalem Post のインターネットページから講演の一部を引用したものである。(記者の書いた記事からの一部引用となっておりますので、削除された部分があるようです。ご了承ください。)

"If there is a hard, high wall and an egg that breaks against it, no matter how right the wall or how wrong the egg, I will stand on the side of the egg.

"Why? Because each of us is an egg, a unique soul enclosed in a fragile egg. Each of us is confronting a high wall. The high wall is the system" which forces us to do the things we would not ordinarily see fit to do as individuals.

"I have only one purpose in writing novels," he continued, his voice as unobtrusive and penetrating as a conscience. "That is to draw out the unique divinity of the individual. To gratify uniqueness. To keep the system from tangling us. So - I write stories of life, love. Make people laugh and cry.

"We are all human beings, individuals, fragile eggs," he urged. "We have no hope against the wall: it's too high, too dark, too cold. To fight the wall, we must join our souls together for warmth, strength. We must not let the system control us - create who we are. It is we who created the system."

Feb 15, 2009 23:57 | Updated Feb 16, 2009 3:48
Murakami, in trademark obscurity, explains why he accepted Jerusalem award

http://www.jpost.com/servlet/Satellite?cid=1233304788868&pagename=JPost%2FJPArticle%2FShowFull

 この演説に賛否両論があるようだ。
 
 メタファーをうまく使っているところや、意味がよくわからないところが村上さんらしいなと思った。だから小説が出るたびに、論争になるのだ。村上さんの小説は大抵こんな感じではなかろうか。

 私は、1月14日のこのブログで、二十年ぶりに村上さんの小説を読み、敵に対抗しようとする力強さを感じたという感想を書いた。

 http://highlyeffective.naganoblog.jp/e198254.html
 
 『海辺のカフカ』を読んだあと、タイミングよくこの演説がなされた。
 
 この演説を聞いて、私が感じた力強さというのはこういうことだったのだなとよく理解できた。書かれている通りに実際に行動をされたのである。

 この演説は村上さんの、飾ることのない素直な主張だと私は理解する。小説を読めば納得できる話である。
 

   

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