『経綸のとき 近代日本の財政を築いた逸材』を読んで
尾崎護さんの『経綸のとき 近代日本の財政を築いた逸材』を拝読しました。
この本は江戸時代から明治時代にかけて今の財務省(大蔵省)の基礎をつくった三岡八郎(のちの由利公正)の生涯を描いた歴史小説です。
2月の「ビジネス読書会」の課題図書です。会員のOさんが選定してくださいました。
普段まったく歴史小説を読んでいませんので、この本を読むのはかなり時間がかかりました。登場する人物がどういう出自で、他の人物とどういう関係になっているかが分からなくなってしまうので、ザーッと読む、ということができません。コツコツと読みました。
著者の尾崎護さんは元大蔵省事務次官で、鈴木善幸内閣で総理大臣秘書官を務め、竹下内閣のときには主税局長として消費税導入に尽力された方だそうです。
事務次官をなさった方が大蔵省が出来た経緯を書かれるのですから、相当な思いがこもっています。
三岡八郎と言われても歴史に疎い私にはピンときませんでしたが、由利公正といえば覚えがありました。ただ、この小説を読む限り、由利公正が本当に大活躍していたのは三岡八郎の名前の時代なのです。
三岡八郎は福井藩藩士の子として生れ、横井小楠から財政学を学びます。藩主松平慶永にその手腕を認められ、藩札の発行と専売制を行ない、困窮した福井藩の財政を救います。
松平慶永が幕府政事総裁職に就任すると、その側用人として慶永を支えました。
坂本龍馬とも親交があり、龍馬は八郎のことを非常に高く評価していたようです。
また、驚いたことは、明治天皇の五箇条の御誓文の原文は八郎が起草したものだっということです。
八郎は大蔵省の前身である金穀出納所、会計事務課、会計事務局、会計官の時代に活躍した人物で、大蔵省には一度も籍を置いたことがありませんでした。
しかし、八郎が実質上の初代大蔵大臣と呼ばれ、由利財政の名を残しているのは、正当なことであると尾崎さんは述べています。
この本には三岡八郎とその時代背景である明治維新が描かれています。後から考えたら「こんなことをしていたのか!」と驚くような事件が次々と起こり、だんだんと新しい世の中に変わっていくのです。
いまも明治維新と同じような転換の時期といえるのではないでしょうか。
国家財政、消費税、TPP、米軍基地など全く違う日本に変わりそうな問題が毎日報道されています。
我々も感情に流されてその場しのぎの薄っぺらい判断をするのではなく、明治維新を成し遂げた志士達の行動をもう一度見直して、将来を見据えた決断をする必要があるのではないか、と思いました。
参考:『経綸のとき 近代日本の財政を築いた逸材』 尾崎護 (文春文庫)
現在、古書でしか手に入らないようです。
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