『競争の作法』を読んで

Hitoshi Yonezu

2011年07月17日 10:00

 ちくま新書の『競争の作法 いかに働き、投資するか』は、一橋大学大学院経済学研究科教授の齊藤誠さんが、戦後最長の景気回復について、なぜ国民の豊かさに結びつかなかったかを解説し、どうしたら幸せになれるのか、マクロ経済学の立場から説明した本です。

 帯によれば、日本経済新聞の2010年度「エコノミストが選ぶ経済図書ベスト10」で1位を獲得したとのことです。

 題名から想像できる内容とはずいぶん違っていまして、前半のほとんどの部分は1990年から2009年にかけての日本経済の分析に当てられています。

 2002年から2007年の景気回復の期間において、日本は二つの円安(目に見える円安、目に見えない円安)の順風を受けて、米国製商品よりも二割も安く日本製商品を輸出することが出来たそうです。
 輸出企業の国際競争力は、圧倒的な価格競争力によってもたらされたものだというのです。
 同時期、円安のために、海外の原材料や製品を高値で輸入せざるを得ませんでした。高値で買ったものを円安の力によって売るという構図があったというわけです。
 齊藤さんは、日本の製造業は二つの円安を背景にして、製品を海外に安値でたたき売ったのだ、とまで述べています。

 この期間、実質GDPは額で56兆円、率にして1割強も増加しましたが、実質家計消費は額で19兆円、率で6.5%の増加にとどまりました。

 当時、製造業の皆さま方が非常に好調だったことを記憶しておりますが、私が営んでいるサービス業、飲食業では、特別な波を感じませんでした。

 齊藤さんはマクロ経済学の立場で分析されていますが、私は理屈としては理解できても、感覚としてはよく分からないので、あとで製造業を経営している友人にこの辺りの実情を聞いてみたいと思います。

 では、我われはどのようにしたら幸福を手にすることができるのか、については後半部分に書かれています。

 齊藤さんはエピローグで、本書のメッセージを三つにまとめています。

 1.一人一人が真正面から競争と向き合っていくこと。

 2.株主や地主など、持てる者が当然の責任を果たしていくこと。

 3.非効率な生産現場に塩漬けされていた労働や資本を解き放ち、人々の豊かな幸福に結びつく活動に充てていくこと。

 前半部分の経済分析はいままで聞いたことのないもので、大変興味深いですし、後半部分も齊藤さんの論理が貫かれていて、読み物としても面白いです。

 マクロ経済学の論理は難しいですし、話が大きいので提言をされても距離感を覚えることもありますが、この本は比較的分かりやすいと思います。

 みなさまもぜひご一読くださいませ。
  
 

 参考文献:『競争の作法 いかに働き、投資するか』 齊藤誠 (ちくま新書)
 

 参考ブログ:
 「日本にとっての輸出の大切さ」
 http://highlyeffective.naganoblog.jp/e404770.html

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