『競争と不公平感』を読んで

Hitoshi Yonezu

2011年04月04日 10:00

 このたびの地震において被災されました全国の皆さま方に心よりお見舞いを申し上げます。

 『競争と不公平感』は、大阪大学社会経済研究所教授で経済学者である大竹文雄さんが、市場経済における不公平感について中公新書にまとめたものです。

 大竹さんは労働経済学の専門家として大変有名な方です。

 日本は資本主義国家の中では例外的に、市場競争に対する拒否反応が強い国だそうです。

 現代の経済学を学んだものならば、市場競争がどれだけ我が国の経済を成長させ、我々がどれだけその恩恵を受けてきたのか知っていると思いますが、一般的に市場の競争の話をすると、メリットの部分は外されて、競争に負けた側はかわいそうだ、という議論になってしまいます。これにはそもそも学校教育に原因があるようです。
 
 もちろん、政府の役割として、立場の弱い側を助けることが必要で、そのことは経済学の論理の中に明確に織り込まれています。

 市場競争に異を唱えるのならば、前提条件として市場競争のメリットを理解していなくてはなりません。

 この本では、社会、経済のいろいろなトピックについて、経済学の論理と実証分析の結果を用いて説明されています。

 例えば、団塊の世代の政治力については、人口規模で常に大きな比重を占めてきた団塊の世代が、今まで政治の動向を決めてきたとし、これからは団塊の世代が高齢者に移っていくために、高齢者の政治力は強くなるだろうといいます。
 その場合、将来を担う若い人たちの教育よりも、年金や医療というものばかりに政治の比重が置かれるようになるかもしれないと指摘しています。

 また、不況の原因について、大阪大学教授の小野善康さんの守銭奴的流動性選好の論理を取り上げています。
 モノやサービスは、消費すればするほど追加的な満足度は低下していきますが、お金については、あればあるほど満足度が上がります。お金はどんなモノやサービスも購入できるという意味で、トランプのジョーカーのような力があるからです。
 こうしたお金への選好の特殊性が、消費をせずお金を貯めすぎるという人々の行動を起こしてしまいます。それがデフレにつながり、モノが売れなくなり、失業者が増えて、長期の不況が発生する、という悪循環に陥ってしまうというものです。
 この場合には、生活環境を高めるような投資や公的サービス、また、高所得者や、資産を多く持つ人から失業者への所得を再分配するような政策が有効だそうです。

 この他にも、外国人労働者や労働時間の問題なども、面白い切り口で解説されています。

 経済学の知識があったほうが読みやすいとは思いますが、一読の価値のある本です。どうぞご参考になさってください。

 被災をされている地域には、優先的かつ集中的に予算を配分して、一刻も早い復興がなされますことをお祈りいたしております。 

 

 参考文献:『競争と不公平感』 大竹文雄 (中公新書)
 

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