『間違いだらけの経済政策』を読んで

Hitoshi Yonezu

2011年01月10日 10:00

 榊原英資さんの『間違いだらけの経済政策』・・・もうずっと前に購入してあったのに、読むのがずいぶん遅くなってしまいました。

 2008年11月に第一刷が出ていますから、もう二年以上前に出版された本です。同年9月に起こったリーマンショックのすぐ後に出された本だったのですね。
 経済の本はしばらくたってから読むと、正しいことをいっているのかどうか、よく分かります。

 榊原さんは2002年から2009年まで続いたいわゆる「いざなみ景気」(この本が書かれた当時はまだ途中)は、円安バブルであったとし、2001年から2006年までの金融緩和を批判されています。
 長すぎたゼロ金利の維持が、日本から資金の流出を加速し、円キャリートレードを生み、円安バブルを作り出していったといいます。

 この期間、好景気だったのにデフレが続いたのは、アジアの経済統合が進むという構造の変化があったからで、国内の需要不足ではないといいます。
 にもかかわらず、デフレ対策として金融緩和を続けた小泉政権を批判されています。

 この時期の金融緩和は、円安バブルを生み出したこと、その後の景気後退期の利下げの余地をなくしてしまったこと、の二点で将来に禍根を残す政策だったと指摘しています。
 確かにいま利下げができないのはその通りです。

 榊原さんは、そもそもマクロ経済学の有用性に懐疑的です。マクロ経済モデルは株式のチャート分析とそんなに変わることはなく、どちらも五十歩百歩だと言っておられます。

 グローバリゼーションや、一財一価格の仮定と財の相対価格、あるいはその構成の変化など、構造の変化が起こっている場合には、従来のマクロ経済モデルだけでの分析には限界があります。構造を読み、歴史や人文科学や他の社会科学とのクロスオーバーすることが必要だそうです。
 
 さらに、経済政策はそれなりの影響を与えることはできても、経済を完全に制御し、コントールすることはできないそうです。このあたりは、政策を担当された方の発言としては、やや言い訳めいているようにも聞こえますが、それが現実なのかもしれません。

 いざなみ景気の期間は、円安バブルだったとしても、輸出に関わる企業、またその下請け、孫請け企業などには大変な恩恵があり、GDPも成長しました。
 私の近辺、長野県の製造業の社長にお聞きしても、この時期は手が足りないくらい忙しかったそうです。

 この間に次の国家ビジョンをつくればよかったのですが、はっきりしないまま、ここまで来てしまいました。

 要素価格が上昇している日本では、今後、これと同じようなことを起こすのは難しいでしょう。
 
 現在のところ、日本経済をどのような方向にもっていくのか、政府の新たな戦略は見えてきていません。いろいろな方がいろいろなことを言っておられますが、何も決まっていませんし、何も進んでいません。
 
 素晴らしい素質をもった日本ですのに、先行きが心配ですね。

 参考ブログ:
 「『「日本脳」改造講座』を読んで」
 http://highlyeffective.naganoblog.jp/e628184.html

 「『日本経済のウソ』をよんで」
 http://highlyeffective.naganoblog.jp/e638561.html
 高橋洋一さんの『日本経済のウソ』は、デフレを解消すれば雇用も財政も改善する、と主張されていますので、榊原さんとは全く逆のお立場です。

 「日本にとって輸出の大切さ」
 http://highlyeffective.naganoblog.jp/e404770.html 
 北尾吉孝さんは、いざなみ景気の原因は、金融緩和と円安誘導だったとし、この期間に同時に内需刺激策をすべきだった、と指摘されています。

 参考文献:『間違いだらけの経済政策』 榊原英資 (日経プレミアシリーズ 2008年11月)
 

 
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 http://highlyeffective.naganoblog.jp/e623163.html


 

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