凛とした誠実とは

Hitoshi Yonezu

2012年06月23日 10:00

 『暮しの手帖』の編集長である松浦弥太郎さんのもとには、カメラマンやイラストレーターが自分の作品についての意見を求めるためにやってくるそうです。

 松浦さんは次のように答えます。

 「アドバイスはしないし、意見も言えません。作品を見て、あなたという人がいると知ることしかできませんよ。」


 冷たい対応だと思いました。

 しかし、松浦さんの誠実さとは、仕事でも恋愛でも一度相談されたことは一生面倒をみるという覚悟をもつことなのだそうです。

 その義務は一生続くものであり、途中で投げ出しては卑怯な振る舞いになります。だったら最初から一線を越えないほうが、おたがいのためだと思うのです。
 家族、友だち、一緒に働いている人たちにアドバイスするときは、相応の覚悟と情熱をもって向き合います。真剣にアドバイスしたいからこそ、僕にはあらゆる人に対して同じように向き合えるほどのキャパシティがないのです。
 軽い気持ちでアドバイスするのは、誠実でないやさしさです。
 
                    『今日もていねいに』より引用


 私はいままで松浦さんの逆をやってきました。
 何かアドバイスを求められたら、その人のためになればと思い、気軽に知っていることを教えてあげたり、人を紹介したりしてきました。

 そのときの私には、役に立ったという喜びはありました。

 もしも後でその方がうまくいかなくなってしまったら、私のとった行動は最終的にはマイナスになりますし、私の信用も落ちます。

 かつて一回のアドバイスが逆にその関係をこじらせてしまったことがあり、この本を読んだら、何もしないでおくほうがよかったのか、もしくは一生指導する覚悟でやるべきだったか、と反省しました。

 一生面倒をみるという覚悟がなければ、その人にとって耳触りのよいことは言えても、その人を変えるような厳しいことは言いずらいです。

 家族に対応するくらいの真剣さがなければ相手は真剣に聞いてくれないでしょうし、理解してもらえません。

 コンサルタントやコーチなどのように、お金をとって教えたり導いたりする人がいるのですから、アドバイスを受けるということも与えるということも、軽々に考えてはいけないでしょう。
 
 凛とした誠実さとは、相手を決して甘やかせず、本当に相手の将来を考えることなのだな、と思いました。

  


 参考文献:
 『今日もていねいに。 暮らしの中の工夫と発見ノート』 松浦弥太郎 (PHP文庫)
 

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