意識不明の中で
『自分で奇跡を起こす方法』は、自動車事故で意識不明になった奥様が奇跡的に回復するまでの過程を、ご主人である歯科医師が詳細に綴った書籍です。本の帯によると、この本の元になったスピーチは口コミだけで一万ダウンロードを記録したそうです。
意識不明のときの人間の頭の中の状況について、ご主人が、回復した奥様に聞く部分を引用します。
(以下引用)
「意識不明のときのことって覚えている?」
妻は「まわりでみんなが話していたことがわかっていた」と言います。
「わかっているんだけど、身動きが取れない自分があって、どうしよう、どうしようと思った」
「自分のまわりに人がたくさんやってきて、すごく心配しているけど、何がそんなに心配なのか自分の中ではわからなかった」
(中略)意識不明のときの記憶があるということは、脳波は測定できなくても脳は動いているということになります。(以上引用)
この部分を読んで、私は二年半前に妻の最期と向き合ったときのことを思い出しました。
妻は付き添っていた実母に、
「安らかに眠りたい」
という最期の言葉を残すと、しばらくは眠ったそうです。やがて、目をパッチリと開き、声も出ないのに、何かを言おうと、口をパクパクさせ始めたのです。
私が病室に駆けつけたときには、そんな状態でしたから、言葉を交わすことも出来ませんでしたし、目は開いているものの、私が見えているのかどうかもわかりませんでした。もう瞬きもしなくなっていたのです。
こんな状態になってしまっているのに、看護師さんは
「奥さんには、ご主人の声が聞こえていますよ、見えているのですよ、だから声をかけてあげてください。」
と言いました。
私もきっとそうだなと思って、妻の手を握り、名前を呼んで、一生懸命語りかけました。妻の実母や私の父母も「はるみさん、はるみさん」と何度も何度も声をかけました。
この状態が2時間くらい続いたでしょうか。そして、口の動きや胸の動きがだんだんと消えていったのです。
妻はホスピスに入院していて、自分が末期であることを知っていたのですから、みんなで声をかけたこの時間、自分がこの世とあの世との境界を歩いていることをわかっていたのだろうと思います。
ふわふわな感じの花畑とか、雲の上のようなところで、妻は天使のような白い布をまとった出立ちで、旅の準備をしているところです。まわりに私や家族がいるのがわかっていて、出発までの時間、今までのことを話したり、感謝をしたりしているのです。別れを悲しんではいませんでした。
私は妻の聞こえない声をずっと聴いていました。二時間も話し続けたのですから、言いたいことはほとんど言えたと思います。
全てを言い終えた瞬間に、時間がきて、
「じゃあ、いくよ」
と言って、舞い上がったのです。
私はこの経験を通じて、人は無意識の中に意識があること、そして自分の最期を分かっているということを確信したのです。
参考文献『自分で奇跡を起こす方法』井上裕之(フォレスト出版)
この本はスピーチをもとにしているせいか、少々読みずらいですが、ご興味のある方はぜひご一読ください。
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