機内に落ちていたねじ

Hitoshi Yonezu

2011年09月20日 10:00

 先日、出張のためにA社の国際線(エアバスA320)に搭乗したときのことです。

 ほぼ全ての乗客が搭乗し、後から入ってきた乗客が、オーバーヘッドビンに荷物をつめていました。私はシートベルトを締めたところでした。

 通路をはさんだ隣りに座っていた中年の女性が、

 「ねじが落ちてる!」
 
 と通路を指さすのです。

 通路を見ると、ワッシャーの付いた小さなシルバーのねじが一つ転がっていました。

 私に促しているようなので、それでは、と思い、拾ってあげました。

 ちょうどそこへCA(キャビンアテンダント)が通りがかり、この一部始終を見られてしまいました。

 私はそのねじを落し物として、CAに渡しました。

 そのCAは、私やその女性やその周りの乗客に、ねじに心当たりはないかと聞くと、そのねじをギャレーへもっていってしまいました。

 これで一件落着かと思っていたら、先ほどの女性が

 「あのねじは主人のトロリーバッグのものらしいから返してほしい」

 というのです。

 私はCAを呼び、先ほどのねじを持ってきてくれるように頼みました。

 CAはご主人のバッグをわざわざオーバーヘッドビンからおろして、バッグのどの部分のねじなのか、バッグをひっくり返し一箇所一箇所確かめていました。

 ところが、そのねじが該当するようなねじ穴はないのです。

 女性は間違いにしぶしぶ納得したようで、CAもねじをもって再びギャレーへ消えていきました。

 これでこの話は終わりだろうと思いました。

 その後すぐのことです。

 ドアクローズ直前の機内に、水色のつなぎを着た整備の男性が乗り込んできたのです。

 彼は通路に跪くと、眼鏡をはずし、マグライトの光をねじに当ててその形状などを確かめると、客席の後ろやら、裏やらを詳細に調べていました。

 「これは航空機のものではないです。」

 そう言うと、彼はねじをCAに渡し、飛行機から降りて行きました。

 CAは周りの乗客に

 「お客さま、このねじは航空機のものではなく、運航の安全に支障がないことを確認いたしました。どうぞご安心なさってください」

 と説明してまわったのです。

 素人目に見てもそのねじは航空機のものとは思えませんでしたが、CAはねじが落ちていたことを見てしまったために、手順に従って、この問題を解決したのだと思います。 
 
 この事件の詳細については、のちほどデータとなって上司または会社の専門部署に報告されることでしょう。

 隠してしまってもいいようなことを絶対に隠さないこと、そして、その際には離陸が遅れたとしても安全が最優先に判断されること。

 この企業のマネジメント体制の徹底ぶりを感じた出来事でした。
 

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