映画『おとうと』を見て

Hitoshi Yonezu

2010年03月01日 10:00

 ようやく寒さもゆるんでまいりました。みなさまいかがお過ごしでございましょうか。

 日頃は大変お世話になっております。誠にありがとうございます。

 さて、最近見ました映画の話です。

 山田洋次監督の「おとうと」は、問題を起こしてばかりいて一向に更生しようとしない弟、鉄郎(笑福亭鶴瓶)を、温かく受け止めようとする姉、吟子(吉永小百合)の愛情を描いた映画です。
 絶縁しても、心配になってまた探し出そうとする吟子の深い思いやりは、甘いだけではないか、と娘の小春(蒼井優)から非難されますが、やがて、その愛の深さが家族全体に伝わっていきます。
 
 いまや、何事であろうと成果で評価される世の中です。出来る人にますます力を発揮してもらうことは、社会全体のためになります。ビジネスや教育となれば、それはそれで仕方がないのです。

 では、鉄郎のようなはみ出し者を排除し、そげるところをそぎ落としていけばいいのか、と言えば、それでは誰も納得しないでしょう。

 先日、ある画家の先生のお話を伺う機会がありました。専業の芸術家です。
 その方は、車の免許を持っていない、飛行機に乗ったことがない、海外に行ったことがない、という三つの事が今では自慢になっているそうです。

 また、IT化、デジタル化の進展が人間の能力を奪ってしまうのではないか、お金を使わなくても十分生活できるのに、政府がお金を配ってお金を使わせようとする世界はおかしいのではないか、と心配をされていました。
 たとえご自分の作品が売れなくて収入が下降線をたどったとしても、別に死のうと思うわけでもなく、それなりに生活を楽しむことができるといいます。

 あまりにも芸術家的な発言で、ビジネスをされている方からは、そんなこと言うのは特別な人だ、と言われてしまいそうです。

 しかし、考えてみれば我々の生活も、実は薄氷の上にあるのです。ビジネスが幅をきかす秩序あるこの生活が永遠に続くと誰が保証できるでしょうか。

 もし、いますぐに戦争にでもなったら、生活力のある人が頼りになるわけで、それはPCが出来る人よりも、実物のご飯を持ってきてくれる人なのです。
 戦争でテレビが見られなくなったら、みんなが画家の描く絵を見たいと思うかもしれません。

 評価されていることのすべては、いまの条件のもとで・・・の話です。
 いまの世の中では、成果や数字を出していかねばなりませんが、もしそれらを人生の中心としているのであれば、それはかなり偏っています。

 ビジネスの世界ではビジネスの世界ですが、人間関係は人間関係、家族の世界は家族の世界です。それはそれ、これはこれ、の話です。
 表面的なことにとらわれて、基本を見失わないようにしたいものです。

 映画「おとうと」の吟子はそんなことを改めて教えてくれました。

 末筆となりますが、皆さまのご多幸、ご健康を心よりお祈り申し上げます。今月もどうぞよろしくお願いいたします。

 
 
 参考:山田洋次監督作品『おとうと』 2010「おとうと」製作委員会
 『おとうと』公式サイト http://www.ototo-movie.jp/

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