ドラッカーの見た人事考課制度

Hitoshi Yonezu

2014年05月14日 10:00

 ドラッカーは人事考課制度についてどのように考えていたのでしょうか。

 『経営者の条件』の4章「人の強みを生かす」からご紹介しています。

 実は、多くの組織が使っている人事考課は、臨床心理学者や異常心理学者が治療用に開発したものである。臨床心理学者とはつまるところ病人を治療する治療士である。彼の関心は患者がうまくいっていることではなく、患者がうまくいっていないところにある。そもそも何かうまくいかないことがなければ彼のところへ来るはずはない。したがって臨床心理学者や異常心理学者は、弱みを診断するべく人を評価する。 

          『経営者の条件』 p117より引用


 ごく一般的な人事考課制度を用いてしまうと、強みを見ることなく、弱みに焦点を合わせることになってしまうのです。

 今日の人事考課制度に忠実に従って部下の弱みに焦点を合わせたりすれば、上司と部下との関係は破壊される。組織の内部規定による人事考課を実行していないエグゼクティブは、健全な本能に従っているといえる。欠陥や短所や弱みに焦点を当てる考課面談を嫌うことも完全に理解できる。 

           『経営者の条件』 p118-119より引用

 
 ドラッカーは人事考課についてはかなり手厳しいですね。

 さらに問題点を指摘しています。

 また現在の人事考課制度とその背後にある思想は、潜在能力にあまりに関心をもちすぎる。経験のある者ならば誰でも知っているように、将来の可能性や別の仕事での可能性など評価することはできない。潜在能力とは見込みの言い換えにすぎない。もし見込みがあったとしても、実現されないことのほうが多い。逆に見込みがないと思われていた人たちが実際に成果をあげる。
 われわれが行うことができるのは、現実の評価だけである。評価すべきものも、現実の成果だけである。

           『経営者の条件』 p119より引用


 多くの人は、どこの大学を卒業したかとか、MBAホルダーだとか、大手商社に勤めていたとか、そういう過去の歴史を通じて人を評価しようとします。

 しかし、それは現実を評価していることにはなりません。有名大学を卒業していることは、統計的にみたら潜在能力と見えるかもしれませんが、個別に考えたら潜在能力かどうかは分かりません。

 ドラッカーが求めているのはあくまでもどのような貢献をしたかという現実の評価です。しかも強みに焦点を合わせることです。

 したがって成果をあげるエグゼクティブは、彼ら独自の効果方法を工夫している。まず貢献の目標と実際の成果を記録する。その後、次の四点について評価する。
 
 (1)よくやった仕事は何か
 (2)よくできそうな仕事は何か
 (3)強みを発揮するには何を知り何を身につけなければならないか
 (4)彼の下で自分の子供を働かせたいと思うか
    ①そうであるならなぜか
    ②そうでないならなぜか
 
           『経営者の条件』 p119-120より引用


 この部分は有名なので聞いたことがある方も多いかもしれませんね。

 いまだに古い人事考課制度を使っている企業が多いのではないでしょうか。人を落とすための人事考課です。
 
 人事考課は企業の経営にとって必要なものですが、内容は検討せねばなりません。

 書店に行けば人事考課の本は山ほど積まれています。何十年も変わっていないような人事考課の書籍を手にとっても、役に立たないどころか、企業にとって害悪になってしまうことがあるのです。

  


 参考ブログ:仕事を設計する
 http://highlyeffective.naganoblog.jp/e1486936.html

 参考文献:
 『経営者の条件』 P.F.ドラッカー(著) 上田惇生(訳) (ダイヤモンド社)
 

 ”The Effective Executive” P.F.Drucker (Harper Business)
 

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