日常の仕事に流されると
ドラッカーの『経営者の条件』第1章「成果をあげる能力は修得できる」より引用します。
医者にとって患者の訴えが重要なのは、それが意味のあることを教えるからである。これに対し、組織で働く者ははるかに複雑な世界に対峙している。何が本質的に重要な意味をもち、何が派生的な問題にすぎないかは、個々の事象からは知る由もない。症状についての患者の話が医者の手がかりになるのに対し、個々の事象は組織の者にとっては問題の兆候ですらないかもしれない。
したがって、日常の仕事の流れに任せたまま、何に取り組み、何を取り上げ、何を行うかを決定していたのでは、それら日常の仕事に自らを埋没させることになる。いかに有能なエグゼクティブであろうと、それではいたずらに自らの知識と能力を浪費し、達成できたはずの成果を捨てることになる。
P.F.ドラッカー 『経営者の条件』 p30より引用
引用した文章は、組織においては自分ではコントロールできない四つの現実に囲まれている、という話の流れの中で出てきます。
四つの現実とは「時間がすべて他人に取られてしまうこと」「日常業務に取り囲まれていること」「組織で働いていること」「組織の内なる世界にいること」です。
この部分は「日常業務に囲まれていること」の解説です。
エグゼクティブであろうと、社長であろうと、われわれは組織に属している限り、常に日常業務に囲まれています。
病院において、患者さんの訴えを聞いていればいいのは、患者さんの訴えが問題そのものだからです。熱心に聞かねばならないでしょう。
企業においては、そうではありません。社員が訴えてきたことにいちいち対応していても、問題が解決するというものではありません。その訴えはまったく意味のないものかもしれませんし、もしも重大な問題であった場合はそれを引き起こしている原因を突き止めなくてはなりません。
お客さまからの意見さえも、すべてを何の考えもなしに完璧に解決しようとしたら、企業の方向性が定まらなくなってしまう恐れがあります。
日常業務に囲まれている限り、問題の本質は見えてこないのです。
しかし、四つの現実から逃れることはできません。
われわれは特別な努力をしなければ、何もできないまま現実のうねりの中でただ日常に流されてしまう、ということになります。
参考文献:
『経営者の条件』 P.F.ドラッカー(著) 上田惇生(訳) (ダイヤモンド社)
”The Effective Executive” P.F.Drucker (Harper Business)
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