企業の成長過程
日ごとに暑くなってまいります。みなさまいかがお過ごしでございましょうか。
日頃は大変お世話になっております。誠にありがとうございます。
さて、P.F.ドラッカーは『現代の経営』において、企業の規模を小企業、中企業、大企業、巨大企業の四段階に分けています。
注目するのは、企業は徐々に成長していくものではない、と述べていることです。
企業は、中企業から大企業へと徐々に成長するのではない。これら四つの段階は別個のものである。すなわち企業の規模は、古典物理学の世界のような連続的な変化の問題として扱うことはできない。量子力学的な非連続の現象として扱わなければならない。企業規模の問題が、量の問題であると同時に質の問題でもあるのはこのためである。
『現代の経営(下)』 p80より引用
量子力学的と言う以上は、小企業が連続的な段階を踏まずに急に大企業になり得ることを示唆しています。企業はだんだんと大きくなっていくものではなく、質が変われば、すなわちマネジメントや構造やシステムが変われば、短期間で成長できるのです。
逆にいえば、連続的に規模を大きくしてきた企業の中には、質的な変化を伴わないで規模だけが大きくなってしまった見せかけの大企業もあると考えられます。
小さな町工場から9000人規模の工場になったにもかかわらず、町工場のマネジメントから抜け出せずに火災を発生させ倒産した企業の事例が『現代の経営』に挙げられています。
創業者なる者はしばしば、もはや小さな町工場の一隅をマネジメントしているわけではないという事実を認識することができない。また認識しようともしない。
しかし、成長に伴う本当の問題は無知ではない。第一に、企業がいかなる規模に達しているかを認識するため適切な手段がないことにある。第二に、姿勢の問題にある。経営管理者、特にトップマネジメントは、頭の中では何が必要かを理解している。だが彼らは、必要な手段をとることを躊躇する。昔からの馴染みのものにかじりつく。組織図の中で分権化を図り、新しい経営哲学を説きつつ、しかも行動は依然として昔のままのものを続ける。
『現代の経営(下)』 p82より引用
自社がどれくらいの規模に達しているのかが分からないというのは、一生懸命仕事をして、気づいたら自社が大きくなっていた、ということだと思います。
私が重要と考えるのは、姿勢の問題です。この問題は創業者だけに限らず、同族内で継承された後継者においても同様でしょう。
同族系企業の多くは戦後の高度成長の波に乗って成長し、バブル崩壊後は大変な努力をしてここまで維持してきたわけですが、この先、同じ方法では経営を保っていくことはできない、ということは分かっているのです。
ところが行動がなかなか変わりません。自分のことを言われているようで大変お恥ずかしいですが、その通りだと思います。
『現代の経営』は1954年(昭和29年)にアメリカで出版されています。この本をいま読んでも古く感じないのはドラッカーの驚くべき慧眼です。
私は冒頭にご紹介した文章を「経営の質的な変化が企業を量子力学的に成長させる」と理解しました。企業のマネジメントに明るい可能性を感じます。
末筆となりますが、みなさまのご繁栄を心よりお祈り申し上げます。今月もどうぞよろしくお願い申し上げます。
参考文献:
『現代の経営[上]』 P.F.ドラッカー (ダイヤモンド社)
『現代の経営[下]』 P.F.ドラッカー (ダイヤモンド社)
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