技能が知識になったとき

Hitoshi Yonezu

2013年04月03日 10:00

 大学生のとき仏文科の友人が『百科全書』について卒論を書いていたのを思い出しました。

 なにゆえにいきなり『百科全書』の話かと申しますと、ドラッカーに出てきたからです。

 ドラッカーの『ポスト資本主義社会』第1章より引用します。

 技能から技術への劇的な変化を示す偉大な記録、人類史上最も重要な書物の一つが、一七五一年から七二年にかけて、ドゥニ・ディドロ(一七一三~八四年)とジャン・ダランベール(一七一七~八三年)が編纂した『百科全書』だった。この書は、技能に関するあらゆる知識を体系的にまとめ、徒弟にならなくとも技能者になれることを目指した。

      P.F.ドラッカー 『ポスト資本主義社会』 第1章 p36より引用


 それまで職人の秘伝とされてきたテクネー(技能)が体系化され、公開されたのです。

 技術学校や『百科全書』によって、経験は知識に、徒弟制は教科書に、秘伝は方法論に、作業は知識に置き換わった。これこそ、やがてわれわれが産業革命と呼ぶことになったもの、すなわち技術によって世界的規模で引き起こされた社会と文明の転換の本質だった。
 この知識の意味の変化こそ、その後の資本主義を必然とし、支配的な存在にしたものだった。とりわけ、こうしてもたらされた技術変化の速度のために、職人では賄えないほどの資金需要が生じた。

      P.F.ドラッカー 『ポスト資本主義社会』 第1章 p37より引用 


 当時は『百科全書』と聞いても何のことか全く分かりませんでしたし、興味がありませんでした。なんにでも通用しそうなこの一般的な名称だけは覚えていたのです。

 この書の普及が生産を集中させ、個人の作業場から工場へと変わっていく契機となったのだそうです。

 歴史を変えた書物だったのですね。

 現代においても仕事においての手順は明確だったり不明確だったりしています。

 それはそれぞれのトップの考え方や方針によるものでよいと思いますが、生産を効率化するという方向性があるのであれば、いずれの仕事においても手順を明確化する必要がある、と考えます。
 
  


 参考文献:
 『ポスト資本主義社会』 P.F.ドラッカー(著) 上田惇生(訳) (ダイヤモンド社)


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