『ヤッさん』を読んで

Hitoshi Yonezu

2013年02月02日 10:00

 原宏一さんのご著書『ヤッさん』を拝読いたしました。

 原宏一さんは1954年長野県に生まれ、水戸市で育ったそうです。『かつどん協議会』でデビューしましたが当時は鳴かず飛ばずだったそうです。作家としてのキャリアを捨てることを覚悟した2007年、ある書店員が『床下仙人』を猛烈にプッシュしてくれたそうです。『床下仙人』は啓文堂書店おすすめ文庫大賞に選ばれ、ベストセラーになりました。

 『ヤッさん』はある会合で「読書のすすめ」の清水店長が推薦されていた小説です。その場で即売されていたので、買ってみました。2009年11月に単行本として刊行され、2012年10月に文庫本になりました。

 この小説の主人公、ヤッさんは銀座を根城にするホームレスです。家はないですが、身辺は常に清潔にして、清く正しく生きています。

 もともとは腕利きの調理人で、レストランの経営者でもあったヤッさんはグルメで、高級料理店と築地市場の情報を取り持つことで生計を立てています。双方にとって有益な情報をもたらすことで、飲食店や仲卸店で食事ができる恩恵を受けています。

 ホームレスの方が飲食店に出入りしたり、食事をごちそうになったりというと、いくら清潔であるとはいっても、現実の世界では考えられないことです。私は飲食店の経営をしておりますので、衛生問題が非常に気になります。
 ただこれは小説の話ですから、あまり考えすぎてもいけないのだと思います。
 
 ヤッさんは食い逃げをした若者の身の上話を聞いて次のようにいいます。

 「そんなもなあ、上っ面だ。そもそも同情なんてもの自体が上っ面じゃねえか。いいか、身の上話ってのは逃げなんだ。あたしはこんな身の上だから仕方ないって諦めたり、こんな身の上だから助けてって、だれがにすがりつくための逃げの道具でしかねえんだよ。そんなもんに頼っててどうすんだ。若えうちから身の上話にすがる根性でいたら、一生、身の上話に頼って生きてくようなやつになっちまうんだ」

          『ヤッさん』 76pより引用


 ヤッさんはこのように人生を説きます。

 小説は六話に分かれていてどの話もおもしろいです。
 
 たまにはこういう本もよいですよ。
 
  


 参考文献:『ヤッさん』 原宏一 (双葉文庫)
 

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